一瞬にして会場の空気が変わる── それは、ライブでしか味わえない感動の瞬間だ。
雨上がりの夕暮れ、日比谷野外大音楽堂。9人の少女たちがステージに駆け込んだ瞬間、ロックの聖地は歓声と光で満ちあふれた。彼女たちの名は、いぎなり東北産。
トゲトゲしいサングラスをかけた9人が勢いよく姿を見せると、会場からは総立ちの大歓声が返ってきた。あの日、ロックの聖地は彼女たちの熱量で完全にジャックされていたのである。
本テキストは、オフィシャルレポートとして各メディアに掲載いただいた完全版をライトに再構成したものです。なお、掲載写真はノイズ低減処理を新たに施しているため、各メディア掲載画像よりも高画質かつ滑らかになっています。
野音から武道館へ ── 9人の夢の軌跡

日本武道館公演を7月に控えた彼女たちが、4月26日に見せた圧巻のパフォーマンスは、単なるライブではなかった。ロックの聖地を制する者が次なる高みへと駆け上がる、飛躍の瞬間を刻んだ夜だったのだ。
今年9月のファイナルコンサートをもって建て替え再整備に入ってしまうロックの聖地・日比谷野音。この会場でワンマンライブをすることは、いぎなり東北産が活動初期の頃から抱いていた夢だった。2024年7月にフリーライブとしてここのステージに立ったことはあるが、ワンマンは今回が初めて。客席を埋めた観客の期待は今にも破裂しそうなほどだった。
「東京のど真ん中、ここ日比谷野音で私たちの歌声を響かせるぞー!」
円陣を組んだメンバーたちの声が響く。そのまま1曲目「いただきランチャー」のイントロが轟く。伊達花彩が「頂を目指している私たちと一緒に、まずはこの曲。お前ら行くぞー!」と絶叫すると、客席側の興奮はすでにレッドゾーンに突入していた。
革ブーツと網タイツ ── ロックの聖地にふさわしい9つの魂

「日比谷野外大音楽堂、つまりロックの聖地なので、革ブーツと網タイツでロックな感じを出しつつ、スカートには今日のステージセットと合わせた飾りがついています」
そう語る桜ひなの。新衣装に身を包んだ彼女たちは、ライブ序盤から攻めの楽曲で会場を熱くしていく。安杜羽加の「私たちと本気で魂のぶつかり合いしようぜ。お前ら本気でかかってこいよ!」という啖呵に、会場は応えた。「BUBBLE POPPIN」では野音全体が踊って飛んでの大騒ぎ。雨上がりの空にタオルが舞う「Burnin’ Heart」。さらに「微妙」「Action!」と畳みかけ、会場をひとつにしていく。
前半パートを締めくくったのは、伝家の宝刀「天下一品〜みちのく革命〜」。
「ロックの聖地・日比谷野音で、いぎなり東北産、伝説のライブするぞ!」
橘花怜のシャウトに、客席からステージへと注がれる衝動と9人の激しいパフォーマンスは幾度となくぶつかり合う。その相乗効果で会場は熱を帯び、前半ですでに完全燃焼するかのような勢いを生み出していた。
「大人なんていない」 ── 9人の個性が描く青春の絵図
MCでは、メンバーたちが一人ずつ個性あふれる自己紹介を披露する。特に印象的だったのは、橘花怜の言葉だ。
「この世に大人なんていない。今日この瞬間、ここでだけはみんな子供で大青春しましょう」
20歳になって知ったこととして語られたこの言葉には、彼女たちのステージに込められた本質が表れている。律月ひかるの「現実は体に悪い」という前置きから始まる「血湧き肉躍るライブ」という表現。藤谷美海の「東北産ポーズのように誰よりも舌を長く出して」両手でメロイックサインを決めるロックスターぶり。そして安杜羽加の「今、この瞬間を刻め!」というバンドのボーカルのような締めくくり。
それぞれが思い思いの言葉で観客とつながろうとする姿に、日比谷野音ワンマンライブにふさわしい空気が広がっていった。
マジックアワーに輝く新曲「あーぐれす」 ── 希望だけの未来図

気づけばライブは開始からまもなく1時間。日没間近のいわゆるマジックアワーに差し掛かるタイミングに用意されていたのが、今回ライブ初披露となる新曲だった。
「これは今日のために用意してきた新曲です! 素敵な素敵なあなたのこと、みなさんのこと、私たちのこと、もっともっと教えてあげる!」
野音の照明を浴びて躍動する9人がキラキラと輝く、疾走感あるギターポップ。新曲「あーぐれす」は、客席からの歓声を最高潮に高めるものだった。
葉月結菜の説明によれば、「タイトルの”あーぐれす”というのは造語。”絶望(感を覚えた時に発する「あーあ。」=Aargh)がない(=less)”。つまり、希望しかない」という意味だという。
歌詞には「ハッピーや楽しさを追い求めたい」「今を楽しみたい」といった言葉が並び、今のいぎなり東北産にぴったりの明るさで溢れている。それは昨年9月の『仙台ワンマンライブ 〜年末への前哨戦〜 追加公演』のMCで律月ひかるが「絶対、永遠だよ」「みんなにもずっと笑顔で楽しく、明るく元気に」と語っていたことを思い出させる世界観。そんなこともあってなのかは不明だが、興味深いのは、律月には曲中にウサギになってしまう振りも盛り込まれていたこと。「つい本当の姿を見せてしまった」というほうが正解かもしれない。彼女たちの遊び心と魔法のような瞬間が、観客の心を掴んでいた。
妖しく大人な「Viper」 ── 新たな表現の可能性
伊達花彩が野音でやりたかったという「いぎなり野外音楽ウェーブ(いぎなり野音ウェーブ)」。さらにロックの聖地だから今年69歳の人を探すコーナー。そんな客席側とのやりとりを経て、安杜羽加の「暗くなってきましたので、バチバチに格好いい東北産を観ていただきたいなと思います」という言葉から、もうひとつの新曲「Viper」へ。
毒ヘビの意味をもつこの曲は、「あーぐれす」とは打って変わって、妖しく大人な東北産で魅せる、エッヂの効いたダンスナンバー。安杜を中心にヘッドセットを装着した9人が息のあったダンスを見せながら刺激的に歌い上げると、女の子たちからは悲鳴に似た歓声が上がった。
ダンスバトルを見守る観衆のような盛り上がりは特徴的で、これまでのいぎなり東北産とは違った角度から会場を魅了する姿に、彼女たちの新たな可能性を感じずにはいられなかった。
『武道館リハ』 ── 日本武道館への壮大なリハーサル

すっかり日が落ちた後半戦。ここから披露された楽曲を並べてみよう。
「シャチョサン」「テキーナ」「ニュートロ」「I decided」「真っ直ぐに、明日がある」そして「線の物語」。
いぎなり東北産とともに高みを目指してきたファン(「皆産」と呼ばれる)なら、1曲ずつライブが進行するごとに「もしかして?」「そうに違いない!」と確信したはずだ。これらは全て2022年リリースのミニアルバム『武道館リハ』収録曲なのである。
この流れは、彼女たちがこれまで自信をもって表現してきた熱く、激しく、エモーショナルなライブが、夢の舞台でも通用するのかを試すような時間だった。まるで日本武道館公演に向けての腕試しとも言える構成。そしてその答えは、会場の一体感が示していた。

リリース以降、彼女たちのステージでテッパンの盛り上げ曲に育った「シャチョサン」「テキーナ」は、東京の中心でもそのポジションにふさわしい会場の一体感を生み出す。ステージ上を縦横無尽に駆け回って暴れまくる9人と、彼女たちの勢いを凌駕しようとする観客からの大歓声。そして吉瀬真珠の「今年の夏、しんじゅちゃんの隣には、あなたがいてほしいの。あなたのことが……大好き♡」という曲中での台詞の破壊力。あまりの可愛さに安杜羽加がステージで卒倒し、橘花怜が頭を抱えてスローモーションになるというのも理解できるというものだ。
光と歌声が織りなす感動の夜空

特に印象的だったのは、「I decided」から「真っ直ぐに、明日がある」への流れだ。スモークが雲のようにステージを埋め、煌々と照らされた光の中で9人が肩を並べて「I decided」で歌声を日比谷の夜空に放つ。そして桜ひなのからひとりずつ歌い繋いでいく「真っ直ぐに、明日がある」では、ステージ上のミラーボールが作り出す光のシャワーとシャボン玉が圧倒的な空間を演出した。
この曲の間奏で、メンバーは一人ずつ観客に向けてメッセージを送る。
桜ひなの「出逢ってくれてありがとう。」
安杜羽加「いつもたくさんの愛をありがとう。」
北美梨寧「みんなの笑顔が私の幸せです。」
葉月結菜「みんながいるおかげで、私はステージに立てています。」
伊達花彩「これからも一緒に笑っていこうね。」
吉瀬真珠「いつもみんなに支えられています。ありがとう。」
藤谷美海「みなさんの存在で頑張っています。」
律月ひかる「いつだってステージにいるから、また会いましょう。」
橘花怜「これからも、みんなと一緒に。」
会場のいたるところから鼻をすする音や嗚咽が漏れ、誰もがステージから視線を外せない。日比谷野外大音楽堂は、9人の想いや決意を乗せた歌声と、その様子をそっと見守り続ける大勢の気持ちに包まれていた。
「あと九段下りるだけ」 ── 映画のような9歩のエンディング
点と点をつないできた彼女たちの軌跡をそのまま歌詞にしたような楽曲が、いくつものペンライトの光に埋もれた日比谷野音に心地よい疲労感とともに広がっていく。そんな「線の物語」を終えて、いよいよ残り1曲。『いぎなり野音LIVE ’25』のラストを飾ったのは、ロックの聖地らしく激しさを備えた曲であり、東北魂を感じさせる「東京アレルギー」。9人はありったけの感情をステージにぶつける。観客もステージに向けてペンライトを掲げ、叫んで、歌って、踊って。この日の最高の瞬間を迎えていた。
そして、この曲の終わり。ステージ上のいぎなり東北産は、客席に背を向けてステージ奥へと歩き出す。
「カツ、カツ……」
9歩分の足音が響く会場。彼女たちの歩みが止まり、強烈なバックライトとともに、橘花怜はゆっくりと、力強く拳を掲げた。
これは同曲の歌詞「あと九段下りるだけ」をトレースした、石段を九段下りるような演出。そして、この野音のステージは九段下=日本武道館にも続いている。まるで映画のラストシーンのような、印象的なエンディングだった。
この演出には深い意味がある。九段下という地名は、この地が九段坂の下にあったことが由来。九段坂はもともと急な坂道で、その傾斜を緩めるために九つの石段が設けられていたとも言われている。彼女たちの9歩の行進は、この歴史的背景と重なり、日本武道館への道のりを象徴する瞬間となった。
未来へ続く道 ── 10周年とその先へ

本公演の最後には、8月に予定されているいぎなり東北産10周年ライブ・イベントについての情報も発表された。デビュー10周年の当日となる8月9日は大阪で特典会、翌10日には大阪オリックス劇場で10周年ライブを開催。8月13日東京、15日仙台での特典会をはさんで、17日には山形県・リナワールドで、22日には大宮ソニックシティでも10周年ライブを行う。
また、本公演で初披露された新曲2曲を含むCDがセットになったライブBlu-ray『REVENGE LIVE』も現在発売中だ。
メンバーの締めくくりの言葉には、未来への決意が込められていた。
伊達花彩は「私は武道館だけじゃなく、武道館からその先へ行きたいので、これからも一緒に走ってください」と語り、安杜羽加も「この景色は一生忘れないし、一生の宝物です。……みんなもそうですよね? ここにいるみんなで、行きましょう武道館!」と力強く宣言した。
日比谷野音から武道館へ。そして、その先へ。彼女たちの9歩の行進は、さらなる夢への入口に続くものであり、次の扉を叩く音。
この後のいぎなり東北産は、ゴールデンウィークは『南東北ゴールデンめぐり』を行なって、6月にはきゅるりんってしてみてとの対バン主催イベント『A LIVE SENDAI Vol.3』。
……さあ、いよいよ7月9日の日本武道館公演『TOHOKU9』が迫ってきた!
『いぎなり野音LIVE ’25』ラストMC
葉月結菜「ほんとに今日は日比谷野外音楽堂っていう歴史ある場所で、武道館(公演)の前にみんなと一致団結して、一緒になれて、ひとつになれた気がしています。このままみんなと一緒に武道館も楽しく素敵な思い出にできたらなと思っています。今日はほんとにありがとうございました。」
吉瀬真珠「もうすっごく楽しかったです。”54倍”ロック真珠でした。6×9=54。ありがとうございました。」
北美梨寧「今日はあらためてみなさんのペンライトが私たち東北産を照らしてくれてるんだな、と、すごく嬉しい気持ちになりました。みんなで一緒に武道館に行きましょう!」
桜ひなの「はい。……あ、間違えた。岩手県産の、っていうとこだった。今日はありがとうございました。ほんとに楽しくて、なんかもう口角がずっと下がらなくて、このまま帰りたいと思います。みんなのことがほんとに大好きだなって思うし、これからもずっと一緒にいたいなって思うので、歴とか関係なくね、これからもずっと楽しい思い出いっぱい作ろうね。ありがとうございました。」
伊達花彩「はい、みなさん。私は武道館だけじゃなく、武道館からその先へ行きたいので、これからも一緒に走ってください。」
橘花怜「今日は本当にありがとうございました。ほんとにね、今日すごくあつくいいライブになったと思うので、このまま武道館も、そしてその先もみんなと夢を描いていけるように頑張っていきたいと思います。素敵な日々を、瞬間を、本当にありがとうございました。」
律月ひかる「今日は月の光に照らされていたので、より魔法がみなぎってしまいました。私がしたいのは、未来を変えるとか、世界を救うとか、そんな大それたことじゃなくていいので、皆さんの日々がちょっとでも楽しくなるような、ささやかな光であれたらと思います。今日はとっても楽しかったです。ありがとうございました。」
藤谷美海「この(ゴールデンウィーク初日という)社会人が1番テンション上がる奇跡的な日に、みなさんと一緒に過ごせたこと本当に嬉しいです。とってもハッピーになりました。ありがとうございました。」
安杜羽加「本日は本当にありがとうございました。この景色は一生忘れないし、一生の宝物です。……みんなもそうですよね? ありがとうございます。ここにいるみんなで、行きましょう武道館! 行ってくれますか? ありがとうございます。みんなで行くぞー!」
『いぎなり野音LIVE ’25』セットリスト
1. いただきランチャー
2. BUBBLE POPPIN
3. Burnin' Heart
4. 微妙
5. Action!
6. 天下一品~みちのく革命~
7. 桜プロミス
8. わざとあざとエキスパート
9. Love is here
10. Fly out
11. うぢらとおめだづ
12. 沼れ!マイラバー
13. あーぐれす
14. 14.Viper
15. シャチョサン
16. テキーナ
17. ニュートロ
18. I decided
19. 真っ直ぐに、明日がある
20. 線の物語
21. 東京アレルギー
余談:終演後のメモ
皆産も知っているとおり、いつも彼女たちは、終演後、ステージ裏に戻るとひとり一言ずつカメラにコメントしたのち楽屋に向かう。だが、日比谷野音のステージの終わりは違っていた。誰ひとりとして楽屋に戻ることなく、ステージ脇の前室(ステージのすぐ横にある部屋というかそれなりの空間)に溜まって9人で円になって「楽しかった!」「ペンライト綺麗だった!」などなど、みんなで日比谷野音のステージに立った感想をずっと言い合って、目標としていた舞台でのワンマンライブの感動を分かち合っていた(しかも2、3分とかではなく、結構長い時間)。
そして大人たちは、そんな彼女たちの円の外側で、その様子を眺めながら、業界に擦れることなく、いつまでもこんな9人でいてほしいなぁ……なんて思っていた(に違いない)。
さて、7月9日の日本武道館。日本のアイドルシーンに新しい歴史が書き加えられることになる一夜。そのステージを目撃した人たちが、いつまでも誰かに語りたくなる。発信したくなる。そんな一夜。
期待は持てるだけ、ありったけ持っていいだろう。
だって、これまでもそうだったように、いぎなり東北産は、我々が持てるだけの期待をはるかに超えたステージを魅せてくれるのだから。

公演情報
いぎなり東北産 日本武道館公演『TOHOKU9』
【日時】2025年7月9日(水) open 17:45 / start 18:45(※20:59までに終演)
【会場】東京・日本武道館
【チケット】全席指定席 ¥9,500(税込) 学生指定席 ¥7,500(税込)
着席指定席 ¥9,500(税込) ミニ特典付指定席 ¥12,000(税込)
※詳細はオフィシャルサイトをご確認ください
いぎなり東北産10周年イベント
8月9日(土) 大阪・松下IMPホール《10周年特典会》
8月10日(日) 大阪オリックス劇場《10周年ライブ》
8月13日(水) 東京・すみだ産業会館《10周年特典会》
8月15日(金) 宮城・仙台イービーンズ《10周年特典会》
8月17日(日) 山形県・リナワールド《10周年ライブ》
8月22日(金) 大宮ソニックシティ《10周年ライブ》
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