現在、シンガーソングライターとして活動するRuka(溝手るか)が、23歳の誕生日の当日、彼女にとって思い出の会場でもあるDDD AOYAMA CROSS THEATERにてワンマンライブ『Ruka Live ~To the next road~』を開催した。
溝手はかつてグループ在籍時よりRuka名義でソロでの活動も開始していたが、2019年1月には後輩へとバトンを渡して卒業し、所属事務所も退所。現在はフリーとして活動を続けている。
そんな彼女にとって、今回のライブは卒業後初であり、フリーになってからも初めてのワンマンライブ(卒業後、イベント出演はいくつかあった)。会場を押さえるところから始まり、バンドを集めてのリハスタの手配、チケットの券売システムの登録など、これまで“大人の人たち”が行なっていたことをほぼすべて自分で行なったという。
いや、もちろんすべてを彼女ひとりで行なったわけではない。グループの中でとりわけ真面目で素直、信頼の厚かった彼女だけに、ライブ制作や映像周り、物販、当日のチケッティングなど、各方面から彼女とつながりある人たちが大集合。いうなれば、彼女自身の行動力と、グループ時代から培われてきた彼女の人徳によって自然と集まった百戦錬磨のスタッフたちによる“お手伝い”で開催されたのが、今回の『Ruka Live ~To the next road~』だった。
(なお余談だが、筆者もまた昨年末にたまたま彼女と会う機会があった際に本ライブの話を聞き、スチール撮影を申し出た。もちろん“お手伝い”である。)
客電が落ちて静寂に包まれる会場。強烈な逆光でシルエットがステージ上に浮かび上がると、Rukaは息を吸い、マイクに向かってアカペラで歌い出す。聞いたことがないメロディーと聞いたことがない言葉たち。しかしその力強い歌声の中に感じられる決意のようなもの。環境を変えてひとりでの活動を始めた今の心境を綴った初披露の新曲「STAGE」から、この日のステージはスタートする。
「環境が変わって、自分にとって学びの多いこの1年だったんですけど、あらためてひとりでステージに立って、みんなに歌を届けるというのは、今までの感覚とは全然違って。だから、今の自分の歌を聞いてほしい、今の姿を見てほしい、という想いで、今回のライブのテーマに合わせて、急遽作った新曲です。」
最初のMCでは、この曲について触れつつ、時々“言葉が行方不明になって”笑顔を覗かせるRuka。フリーになって売上や収支といったビジネス的な部分も自身で管理することになり、彼女はグループのリーダーの時以上にしっかりしたはず(もしくは、しなければいけないはず)。しかしながら、ステージで話し出すと、そのキャラクターは昔となんら変わらない。いや、ステージとか関係なく、彼女はいい意味で愛らしいままである。
「ワンマンライブはソロになってから初めてで、DDD青山クロスシアターでライブしたいと思ったのは、ちょうど今日から5年前の、私の18歳の生誕祭の会場が実はここでして。ソロライブではなく生誕祭という形だったんですけど、ひとりでステージに立ってオリジナル曲の「Always」を披露したり、カバー曲を歌ったり。ひとりでステージに立って、みんなに歌を届ける楽しさを初めて感じられた場所がここだったので、自分の新たなスタートとして、この会場でやりたいと思って、ここに決めました。」
秋の夕焼けを彷彿とさせるオレンジの光に染まったステージで「9月に鳴く蝉」に喉を震わせると、星型のタンバリンを手に「なんでだろう」をパフォーマンス。客席からの手拍子も重なって、アットホームな空気がフロアを包み込む。
さらに、Rukaは鍵盤の前に座ると、映画『尾崎豊を探して』を観たというエピソードを紹介。人の心を動かせる歌について、その想いを語る。この映画で一番流れていたということで、おもむろに鍵盤を鳴らしながら尾崎豊「シェリー」をさわりだけ歌うものの、「ただ、私がこの曲を歌うと(キャラクターが違うので)みんなポカンとしちゃうかな。」と、笑いをひとつ。“我々の予測不能なトーク”というのはちょっと違って、言い表すなら“話の落としどころをみんなで見守るようなトーク”。Rukaらしい、彼女そのもののような話の展開は、その歌声とはまた違った心地よさがあった。
キーボードの佐倉優美、ギターの西尾大二郎(ダイジー)のこの日のサポートミュージシャンを紹介して、Rukaはあらためて23歳の誕生日を迎えたことを会場に向けて報告する。
「グループにいた時も、誕生日付近にライブをさせていただくことが多くて。その中で、グループにいたからこそ、ステージに立ってみんなに歌を届けたいという思いが自分の中にあって。でも、実際ひとりになってみると、何にもわからないの。びっくりするくらいに。「今までやってきた時間は一体なんだったんだろうか……?」って思うくらいに、何もかもが違うし。自分の無力さを感じて、この1年間は何をしていても不安に思うことが多くて。心配事が増えてきて。そんな1年でした。だけど、ここに来てくれるファンのみなさんもそう。父と母もそう。こんな私に手を差し伸べてくれる人の温かさをすごく感じて。今日のライブも、以前、お世話なってた方々がお手伝いしてくださったり。私がいろんなものを失ったからこそ気づけたものがある。そんな1年でもありました。そして、この想いを歌にしたくて作った曲があります。」
Rukaは、メロディーに言葉を置いていくように「空無」を丁寧に歌い上げる。アイドルにとって卒業とは、世間から大きな注目を集めることができる代償として、その後の展開が吉と出るか凶と出るかは誰にもわからない。いわば最後にしか開けることを許されないパンドラの箱のようなもの。彼女にとって、その箱を開けて残ったものは、これまでの活動の中で彼女自身が育んできた、人との縁。ぬくもり。そんな希望だった。
今ふたたび、彼女は希望を胸に未来へと歩き出す「Biginning」。そして、一番近くで彼女のことを見守ってきた両親への感謝の気持ちを綴った「パパとママへ」を続けて披露する。Rukaのハスキーな歌声が、誰もが持っている両親への想いや記憶と共鳴し、オーディエンスの感情を昂ぶらせる。Rukaの歌声が湛えるやさしさがステージからフロアへと溢れ出すと、感動の波が観客を飲み込み、やがて、ぬくもりを帯びた喝采が巻き起こるのだった。
先の弾き語りコーナーで披露した尾崎豊「OH MY LITTLE GIRL」に続いて、この1年、自分を支えてくれた曲として、高橋優「プライド」をカバーするRuka。しかもこの曲で彼女は、ブルースハープにも初挑戦した。
高橋優が紡いだ歌詞というフィルターを通して感じることができるRukaの1年。「不安だった」とMCでサラリと話していたが、実際、それは我々の想像以上だったことだろう。だがしかし、同時に伝わってくるものがあるとするなら、それは、それでも、何があっても歌い続けるという彼女の信念にほかならない。
どんな形であれ、どんな場所であれ、自分の生きざまを歌い続けるということ。それがRukaの、アイドルとは対極にある表現者として活動していくためのプライドなのかもしれない。
「私を守るために自分を殺すのか」
「自分を守るため私の首を締めるのか」
ライブ後半、スモークと照明が組み上げた映画のようなドラマチックな光景の中で、Rukaはナイフのように鈍く光るスリリングなフレーズをシリアスに歌う。「この曲を書いた時の自分、大丈夫だったかな?」と、自ら口にしてしまうほどに“ブラック溝手さん”が出てしまったという新曲「Fake the World」をオーディエンスに提示してみせる。
そして最後は、バイオリニストの原田 梢をステージに招いて、Rukaが5年前に初めて披露した曲「Always」で締めくくる。
今、5年の時を超えて「Always」が会場で再会を果たす。あの頃よりもいろんな経験をして、少しおとなになったRukaの歌に弦の調べが寄り添い、ピアノの音色とギターの響きと混じり合って「ありがとう」のハーモニーが広がっていく。
言葉を交わさなくても伝わる気持ちが、そこにはあった。
言葉では超えることができない想いが、そこにはあった。
「今日が、Rukaにとっての新たなスタート地点になります。これからもみなさんとたくさんの夢を見られるように、精一杯頑張っていきます。みなさん、応援よろしくおねがいします。」── Ruka
なお、Rukaは4月にファンミーティングの2回目を予定しているとのこと。本人曰く「いつもファンのみなさんより自分が楽しんでしまうんだよねー。困った困った。」だそうである。
◆Ruka(溝手るか) オフィシャルサイト
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