「今日、xxで武田舞彩さんという方が路上ライブをやっていた」という、偶然、路上ライブの場に居合わせた誰かのツイートが投稿されてから数ヶ月が過ぎた。
この間、武田舞彩は何度か路上ライブを行なっている。新宿が多いようだが、高円寺でもやったらしい。また、「あ、花火が見たい。」という、さも夕飯の献立を決める主婦のような思いつきでマネージャーを振り回しながら訪れた『としまえん』では、園内にステージがあったのを見つけてその場で園内スタッフに直接交渉。翌日にはそのステージにギターを持って立っていた、なんていう日本のエンターテインメント業界では考えられないようなスピード感で実現したライブもあった。
そんな武田舞彩が8月11日段階で告知をしているのは、8月25日に代官山LOOPで行なわれるワンマンライブ『武田舞彩2nd Live たけーそにっく~にんじん』と、9月21日にヤマハ銀座スタジオで開催される『Destination〜vol.11〜』出演のみ。8月10日にも路上ライブを行なったそうだが、もちろんその告知もしていない。なぜか。理由については前回の記事で触れたとおりだ。
とはいえ「武田舞彩の路上ライブ」と聞いて、すぐに人だかりができて……と考える人もいることだろう。ファンであれば、なおさらそう思うかもしれない。
しかし、現実はシビアである。
都会の片隅で、ギターを片手に歌う女の子に足を止める人がどれだけいるか。その日、その時間、その場所を歩いているひとりひとりには、歩いている目的や理由がある。その目的や理由よりも、都会のMOBを形成する女の子Aの歌声への優先度が高くなることは普通だとありえない。路上はステージではなく、演者が浴びるべきスポットライトもない。ましてや彼女が留学していたロサンゼルスと異なり、ストリートパフォーマンス自体が日本では未だに文化としてさほど醸成されていない。
7月27日、19時過ぎ。新宿の街を行き交う人の間で、武田舞彩はギターを鳴らしていた。人が溜まりやすい場所を選んでいるとはいえ、その姿と歌に目を留める人の数は、彼女が初めてストリートパフォーマンスしたサンタモニカのサード・ストリート・プロムナードとは比較にならない。しかし、どんなに数が少なくとも、彼女は全身全霊を込めて歌い、足を止めてくれた人たちにチラシを配る。受け取ってくれる人たちの理由も様々で、声と曲に惹かれたという人もいれば、単に可愛かったからという人たちもいる。「前、アイドルやってましたよね?」と、たまたま彼女の過去を知ってくれている人もいる。理由はどうであれ、彼女はそのひとりひとりに、今の武田舞彩の活動を知ってもらおうと、一枚一枚手渡しして、言葉を交わし、求められれば一緒に写真にも収まる。
彼女は「自分の好きな活動ができる今が一番楽しい。」と笑う。それは過去の否定ではなく、恵まれすぎていた過去があったからこそ知ることができた喜びであり、その点についてはしきれないほどの感謝“も”あるという。しかし、過去は過去。今の彼女は2019年の今を生きている。
そして未来を作ることができるのは、今の自分だけだ、ということを知っている。
きっと、次に路上に出る時も、立ち止まってくれる人の数はそれほど多くないだろう。でも、それでもやっぱり武田舞彩はギターを抱えて歌うことを止めない。今の彼女は、息を潜めて、前だけを見据えて、静かに爪を研ぎながら、じっと“その時”を待っている。
8月25日、場所は代官山LOOP。
『武田舞彩2nd Live たけーそにっく~ にんじん』
公演日:8月25日(日)
会場:live house LOOP 代官山
▼一般発売
7月1日(月)10:00~
https://eplus.jp/sf/word/0000124046