吉川友の生足も覗く大胆なスリットの衣装は、白を基調としつつ、アクセサリーにシルバーを用いることでシャープなエレガントさを演出したもの。本人が髪型をショートにしたことも相まって、28歳の大人の女性を打ち出している。── 本文より
吉川友が4ヶ月ぶりとなる観客ありでの単独公演『吉川友LIVE〜Autumn Voice~』を11月22日に初台Doorsにて開催した。新型コロナウイルス感染症の流行後、7月のライブに続く2回目の有観客でのライブ。もちろん今回も入場時に検温や手指の消毒、ソーシャルディスタンスがとられた客席配置、声出しなどの禁止など感染症予防対策が十分にとられた公演となった。
『吉川友LIVE〜Autumn Voice~』昼公演スタート
今回のライブは、これまで同様にきっかバンドを従えての実施。「歯をくいしばれっっ!」がオープニングナンバーだったが、これまでのライブとは少し異なりオープニングSEやバンドの煽りなどなく、暗転の中で吉川友が上手よりステージイン。マイクスタンドの前に立って歌い出すという始まり方だった。
これは午前中に行なわれたリハーサルにて「ライブの冒頭に緊張感をあえて持たせてみてはどうか?」という案がバンドメンバーときっか本人から出たことから。結果的に緊張感を一番持つことになったのは吉川友本人だったわけだが、いずれにせよきっかときっかバンドは、当日、ステージに立って音を出してみて演出を変更するといった、オケでのライブでは絶対にできない柔軟性を備えているクリエティブ集団なのである。さらに驚くべきは、そんな変更を加えたにも関わらずリハーサル自体は予定時間よりも20分近く早く終えてしまうというスキルフルな人たちの集まりでもある(スタジオでの最終リハも当初の予定よりも1時間以上早く終えている)。
「あらためまして皆さんこんにちは、吉川友です。多分、みなさん見てわかる通り、すっごい緊張しております。なんでなんだろ、この緊張…!」
「こんな私でよかったら」を続けて披露したのち、最初のMCできっかは、7月に行なった緊急事態宣言明けのライブよりも緊張していることを必死に訴える。さらに「私じゃない、みんなが(私の緊張を)作り出してるんだよ。」と、自分の緊張の原因を観客のせいにしてみたり、「生配信しているからだ! それだ!」と配信のせいにしていたが、よく考えれば観客は前回同様にマスク着用の声出しNGの着席で変わらないし、前回ライブでも生配信はしていた。
目の前の事実を認めず、徹底的に現実逃避しようとする女・吉川友。……いやまあ、これもいつもどおりなんだけど。
ハンドマイクに持ち替えて、ベントラーカオルの奏でるシンセの音色がフロアをきらびやかに彩る「Sweetie」に「「すき」の数え方」。タイトな音でしっかりとキメてくるGOTOのドラムと曲自体をグイグイと引っ張る有島コレスケのベースにつられるように、吉川友のボーカルもほのかに熱を帯びてくる。配信リリースされた「恋」では、オータケコーハンのジャズマスターから生まれる歪んだサウンドが、リズミカルにしなやかに音の隙間を飛び回る。個人的には、きっかバンドの音の要は実はオータケコーハンのギターにこそあるのではないかと思う。
大胆なスリットからは生足も覗くという今回のきっかの衣装は、白を基調としつつ、アクセサリーにシルバーを用いることでシャープなエレガントさを演出したもの。本人が髪型をショートにしたことも相まって、28歳の大人の女性を打ち出している。もっとも、本人はこの衣装について「最初の印象……イカ。イカっぽくないですか? このままフライにして食べたいですよね。」と、非常に独創的な表現で、せっかくの“大人のいい女”感を霧散させていく。
また前回のライブ以降の近況については、音楽劇『夜のピクニック』再演などはありつつも、引き続き自宅で完結できる仕事が増えたこと、Netflixを観る機会が増えたこと、そしてもっぱらアニメを観て過ごしていること……には触れられなかったが、一方で運動や趣味の釣りには相変わらず出かけていることを明かす。「もっとTwitter更新しろよ、とか、もっとSHOWROOM配信しろよ、とか思うじゃないですか? ……はい。がんばります。」との発言で、我々は「吉川友は今後、SNSと配信を活発化させる」という言質をとった形だが、とはいえ、悲しいかな彼女の口から出た宣言には実行力が一切伴わないことを誰よりも知っているのが友フレ。もし仮にきっかがストイックの有言実行するタイプの人だったら、今頃は英語も中国語もペラペラなはずなのである。
ボサノバ調のデビュー曲「きっかけはYOU!」
さらに所属事務所に入った台湾出身の新人マネージャーに圧をかけてしまった疑惑(?)などを楽しそうに披露しつつ、ライブはバラードコーナーへ。きっかはスリットから左足を覗かせながら、スツールに浅く腰を下ろす。そして披露されたのは、来年の5月11日でデビュー10年を迎えるということから、GOTOとコレスケによるボサノバ調のリズムでデビュー曲「きっかけはYOU!」だった。吉川友もオリジナルよりも少し力を抜いて、たおやかに歌声を響かせる。続けて、オリジナルではテッパンの盛り上がりソング「Candy Pop」を緩やかな音の流れに身を任せるようにしっとりと聴かせる。コロナ禍で、いわゆる盛り上がるライブができなくなった昨今。こうして生演奏でしっかりと音楽そのものを聴かせるライブができるのは、鉄壁のパフォーマンス集団・ハロー!プロジェクトの育成を担うハロプロエッグ(現・ハロプロ研修生)をバックボーンに持つアイドル・吉川友の強みといえるだろう。
これからの季節にぴったりな楽曲のひとつ「冬空花火」へ。オータケコーハンが弾くカウンター・メロディや唸る速弾きと、サウンドに切なさを加えるベントラーカオルの流麗な鍵盤。GOTOのドラミングにコレスケのベースが曲に力強さを与えることで、楽曲がさらにドラマティックなバンドサウンドへと変容していく。そして照明の光に包まれながら、物語を歌い上げていく吉川友。見事なまでのステージパフォーマンスに、会場からは大きな拍手が送られていた。
セットリストを決めません!
「ライブのセットリストも、事務所の方に「決めてください」と言われるので、最近自分で毎回決めているんです。でも自分の好きな曲、ライブで盛り上がる曲を入れていくと、毎回同じような構成になっていくのが私の悩みなので、次回ライブある時、私はセットリストを決めません! 私はもう決めました。(セットリストは)決めません! 私が決める前は、事務所の社長とかスタッフさんに決めてもらっていたんですけど、今度はファンの方が決めてもいいのかなって思ったりしてます。あと、デビュー初期から担当していただいている音楽プロデューサーのmichitomoさんに丸投げするのもありだし、そしてバンドメンバーさんにも決めてほしいんですよ。ありじゃないですか? そうですよね。じゃあ次回はバンドメンバーさんに丸投げしまーす。」
と、自分がセットリストを決めることで生じる曲の偏りを理由に、自分以外の人が決めたセットリストでのライブをステージ上から観客に提案する吉川友。“丸投げ”という表現が聞こえが悪かったり、そもそもきっかがセットリストを自分で頭を悩ませるストレスから解放されたいだけだったりはするものの、一方で、この突発的に出た提案自体に“吉川友のライブが神セトリ”と呼ばれる可能性を秘めているのも事実。夜公演で発表された年末のライブは一体誰がセトリを決めるのか。とはいえ発注するのを忘れてしまって、やっぱりきっか本人が決めることになってしまうのか。今後の動向を見守りたいところである。
新曲「TABOO」と「DISTORTION」の歌い分け
ライブ後半は、7月のライブで初披露され、12月に配信リリースが予定されている新曲「TABOO」から。全体的な暗めな照明に浮かび上がる吉川友のシルエット。足元では異素材で作られたスカートの裾が、深夜の薄明かりに照らされたレースのように艶かしく揺れる。ファルセットを巧みに使いながら恋愛の悲喜こもごもを音に乗せていくその等身大な歌声にフロアの観客は酔いしれる。一方、恋の激しさを叩きつけるような「DISTORTION」だが、実はきっかは「TABOO」よりも少しだけ幼さを感じさせる声を使って歌っている。このふたつの曲で描かれている女の子の年齢差と、だからこその恋愛の違いを声色を使って歌い分けてしまえることからも、ほかのアイドルや特に昨今のアイドル上がりの“有象無象”と比較して吉川友の女優としての起用が多い理由がわかるというもの。
演劇人にとって憧れの劇場といって過言ではない本多劇場の舞台にも立った彼女の表現力、演技力は確かなものなのである。
どちらもバンドサウンドになることで曲の魅力が一気に高まる「URAHARAテンプテーション」と「恋愛遠慕」、そして昨今のライブで締めの1曲的に用いられる機会の多い「Stairways」でフロアの興奮も最高潮に達する。着席マスク着用声出しNGという不自由な状態での観覧が義務付けられている観客も、リズムに煽られて勝手に体が動き出し、客席に灯るサイリウムの光も激しさを増す。もっとも脳内では声を上げ、そして強烈なライトの中心に浮かぶ吉川友に跪く光景を妄想したに違いない。
「会場にお越しのみなさん、楽しんでいただけましたか? ツイキャスのみなさん、楽しんでいただけましたか? よかったよかった。本日は本当にみなさん、足を運んでいただきありがとうございました。このご時世ですが、またみなさんに会える日をたくさん作れるよう頑張っていきますので、みなさん、吉川友の音楽を聞いて……生きてください!」
アンコールの1曲はみんなで盛り上がれる曲として「NEO SUGAR SUGAR YOU」をセレクト。少し懐かしくもある夏の日差しを思い出させるハッピーなサウンドをステージと客席(とカメラの向こう側)で共有し合って、吉川友の秋のライブを締めくくった。
「年内にもう1回くらいどこかでライブやりたいですね。」とMC中に言っていた吉川友だが、昼公演と夜公演の合間にスタッフサイドが検討し(なお、本人は話し合いをする時は「サイゼが一番いい」と語っていたが、残念ながらこれに関してはサイゼリアでは話し合っていない)、次回ライブとして12月26日(土)に表参道GROUNDにて『You Kikkawa 〜 Happy Voice of Year end 〜』開催が決定。また年明け2021年1月からは主演舞台『遙かなる時空の中で3 十六夜記』が東京と大阪で行なわれる。