『吉川友LIVE2025のバレンタインきっか』が2月13日、渋谷ロフトヘヴンにて開催された。本ライブでは、2025年2月14日の0時より各配信プラットホームより配信開始となった新曲「シティームーン」が初披露された。
飛び出す「ニーハオ!」、幕開けはユーミンのバレンタイン曲
いつもの渋谷ロフトヘヴン。いつもの会場。その言葉の響きは、ここがきっかにとって、そして我々にとってもまさに第二の我が家であることを物語っている。観客もスタッフも慣れた様子で、2025年最初のライブの幕開けを待つ。
オープニングを告げる「Ignition」の音が場内を叩き、そこに現れた吉川友の第一声は──「ニーハオ」である。なぜ彼女がたびたび台湾華語で挨拶するのか。確かに台湾での公演経験もあるし、ライブイベントへの出演歴もある。だが、おそらくそこまで深い意味はないのだろう。それがきっからしい。
1曲目は2013年1月リリースのシングル収録曲「Valentine’s RADIO」。松任谷由実のカバーでもある。バレンタイン前日という日程に合わせ、この日のセットリストにはバレンタインにまつわる楽曲が並ぶ。
大人の色気と新曲への期待をまとう漆黒の衣装

目を引くのは、レザー調の黒いインナーに黒のジャケット、そしてパンツを合わせた衣装だ。異素材の黒でまとめながらも、パールを中心としたアクセサリーを胸元に効かせ、大人の色気と華やかさを演出している。実はこの衣装、後に初披露される新曲用だったのだが、それを我々が知ることになるのは公演中盤以降のこと。さらには翌日のバレンタインデーに配信がスタートすることも、この時点では誰も知らない。
マイクスタンドに体重をかけるような姿勢で歌う「ヒラヒラ星」。照明に煽られての「TABOO」。2024年は舞台出演が多く、ライブイベントのステージ本数は例年より少なかったはず。その分か、久しぶりの吉川友の歌声に、客席の熱量は最初から高めだ。
噛み合わないMCもまた一興? きっかワールド全開!

ところが──だ。「みなさんこんばんは!」という最初のMCから、なぜかきっかと友フレとのテンポが合わない。久しぶりの単独ライブゆえか、観客と本人の熱量の差なのか。きっかは「あ、私が悪いよね。わかったわかった」と、機嫌を拗らせた女の子のような発言で観客を苦笑させる。
そこから「みなさんにチョコレートをお渡ししたいなと思うんですけど……」と、無駄に期待感を煽る吉川友。しかし「ありません」と続けた瞬間、会場は大ブーイングに包まれた。「すいません。気持ちはね、気持ちはね!」と言い訳がましく、「コロナとかあって、感染予防の対策のためにね!」と、いつもの如くとってつけたような理由を並べ立てる。結局「曲という形で、甘い、あま〜い曲たちを、みなさんにお渡ししたいな」と着地を図るものの、「別に経費削減のためじゃないよ」という言葉に、会場からは更なる笑い混じりのブーイングが起こった。
「チョコレート魂」から「こんな私でよかったら」へ、一体感MAX!
そんなMCを経て披露されたのが「チョコレート魂」。松浦亜弥のオリジナルを、吉川友らしい世界観で歌い上げる。2009年の楽曲を、2025年の今に蘇らせる。アイドル・松浦亜弥は、その歌唱力で圧倒的な存在感を放っていた。そんな先輩の楽曲を、きっかは見事に自分のものにしている。
続く「こんな私でよかったら」では、懐かしい振り付けとともに笑顔で歌い上げる。客席からは黄色いペンライトの光が振られ、会場は一体となった。2012年のリリースから12年以上が経つが、今なお色褪せることなく愛され続ける一曲である。
強風でパンツが!? きっかの赤裸々告白に会場騒然

MCでは、この日吹いていた強風(春一番?)にちなんで、意外な告白が飛び出した。「実は、前にSHOWROOMとかで話したことあるんですけど、小学校……いや、幼稚園の時かな。パンツが飛ばされたことがあるんです。風の強い日だったと思うんですけど、うちの周りは田んぼ道で。登下校で道端にパンツが落ちている時ってありますよね?」と切り出すや否や、客席から即座に「ないよ!」の声が。
「茨城県はパンツが落ちている時ってあるんですよ! 東京ではないですけどね。手袋くらいしか落ちていることないけど」と強弁する吉川友。「で、そのパンツが誰のかわからないじゃないですか。でもよくよく考えたら私のだ……って。でも下校の時だから、私のだとは言えないじゃないですか(笑)」
そんな苦い思い出があってか、「だから、こういう強風の日は外干しはやめようと思って。今日は晴れていたから外干ししたかったんですけど……お布団のカバーだけ外干ししてきました。なのでみなさんもね、こういう強風の日はパンツは外に干さない方がいいですよ。私からの教えです」と、人生の教訓を語る。
その流れから、普段の自転車乗りの出で立ちの話へ。「しょっちゅうマウンテンバイクに乗るんですけど、顔の日焼け対策をしっかりしていて……目だけ出るようなマスク型のフェイスガード、スナフキンみたいな深い帽子、さらにサングラス」という完全防備に加え、「普段黒い服しか着ないから、遠くから見たら怪しい人ですよね」と自虐的に笑う。
そんな怪しげな出で立ちで「まるで化け物を見た時の顔をしてたんです。2度見もされて」と、小学生を驚かせてしまったり、バドミントンの羽を取ってあげようとして子どもたちにトラウマを植え付けかけた(?)話を披露。しかし意外にも、その怪しい格好のおかげで不審なおじさんを撃退できたエピソードで会場を沸かせた。
変わるもの、変わらないもの。吉川友の真髄

ライブ中盤の「Candy Pop」「NEO SUGAR SUGAR YOU」では、「きっか!」コールとともに会場は大いに盛り上がる。きらびやかなステージで、吉川友が音に乗って心地よい歌声を響かせる。カメラを構え、その歌声を耳にしながら、ふと考える。
物事には変わり続けるものと変わらないものがある。吉川友という表現者の表現の仕方は常に変わり続けている。役者としてもそうだし、歌手としての単語レベルでの歌い方や声の出し方も変わり続けている部分だ。一方で、曲が持つ雰囲気や、ファンの人たちから大切にされている部分、本人が大切にしている部分──そういうところは不変なもの。だからこそ、そういう不変なものをみんな求める。その曲を初めて聴いた時の感覚、手触りを再び求めようとして(それは時にはパーソナルな思い出も伴いながら)、ライブへと足を運ぶ。”今もなお”足を運んでくれるところがあるのだろう。もちろんその裏には、彼女も歌声の出し方は変えようが歌い方を変えようが、そういう不変であるべき部分をちゃんと守っているからこそ、このステージは成立する。
「NEO SUGAR SUGAR YOU」の軽快なリズムが心地よい。いつ、どの季節でも耳にした途端に周囲を夏に変えてしまうパワーを持った曲だ。フロアも体をリズムに委ね、手を振ったり、ペンライトを振ったりと、みんなで一緒に気持ちよく盛り上がっている。
怒涛のメドレーは「スイーツブッフェ」
続いて「恋しさと せつなさと 心強さと」「抱いてHOLD ON ME!」「LOVE涙色」の3曲をメドレーでカバー。特に「LOVE涙色」では「L、O、V、E、ラブリーきっか!」というコールも飛び、会場の一体感は最高潮に達した。かつてボカロPたちのサウンドプロデュースでリリースされた「ボカリスト?」というアルバムで音源化されたこれらの楽曲。吉川友がカバーすることで、改めて彼女の歌唱力の高さを実感させる。
「(メドレーは)なんか、あれみたいでいい感じでしたね、”スイーツブッフェ(スイーツビュッフェ)”」と言い出すと、「は?」という反応。「え、もしかして私たち今日気が合わないのかな? なんで? えー、どっちが変わったんだろう。あんたたちが変わったんでしょ? 私はいつも通りだからね」と、またしても客席とのかみ合わないやり取りで笑いを誘う。
新曲『シティームーン』初披露! 大人のきっかに酔いしれる

ライブ後半では、4月2日(夜7時開演の時間と合わせて、本人曰く「しにな」の日)と5月1日(吉川の33歳の誕生日)に渋谷ロフトヘヴンで次回ワンマンライブを開催することを発表。そして、吉川友「I LOVE YOUが言えない。」やアップアップガールズ(2)「シーユーだけ。」などエモーショナルな作品を手掛けるナツノコエの作詞作曲による新曲「シティームーン」を初披露する。
「ここでお知らせがひとつ。今日は新曲初披露です。コロナ禍から配信リリースという形で何曲か出させていただいております。いろんなアーティストさんに曲を書いていただいて、今回の新曲もまたいつもと違った……毎回自分の中ではいつもと違ったんですけど、今回の曲はまたひと味、なんか私って大人になったんだなって思いました」──そう語る吉川友の表情には、期待と誇りが入り混じっていた。
スツールに腰かけ、目を閉じて歌い出す。左胸を飾るアクセサリーを光らせながら歌い上げる姿と、新曲を一音も聞き漏らすまいと聴き入る観客が描くコントラスト。「TABOO」とはまた違った意味での大人のバラード。これまでのアイドル活動だけでは到達できないような、どこか陰が似合う楽曲だ。大人になるということは、そんな陰も受け入れられるようになることなのかもしれない。
同時にこの曲、メロディーラインをなぞることとエモーショナルに歌わないといけないさじ加減的なところをうまく泳げるのは吉川友だからこそと言えるだろう。彼女の後輩たちがこの曲のドラマチックな雰囲気に惹かれ、カバーしたくなったとしても、きっとその難しさに直面するはずだ。
୨୧‥∵OUT NOW∵‥୨୧
— kikkastaff🌹 (@kikkastaff) February 18, 2025
「シティームーン」配信中https://t.co/Kth9tROFbX
>>>NEXT LIVE
2月21日(金)じゃぱんぐ♪ Presents
『娘。ナイト VS AKBナイト vol.3』 (@japang_official ) pic.twitter.com/L1nHJzMNdJ
終盤は2月の寒空に合う「冬空花火」から「ダーリンとマドンナ」で会場を沸かせ、これも吉川友のバレンタインソングといえる「世界中に君は一人だけ」で本編を締めくくった。
アンコールでは再度「シティームーン」を披露。
「というわけで、あっという間の年内一発目の単独ライブ。久しぶりの全曲オケ……あ、そうでもないか。というわけで、今回は新曲を初披露させていただきました。なんとこの新曲『シティームーン』……シティ、シティーだよ。私、茨城県出身だからちょっと訛っているのかも」と、笑いを交えながら新曲への思いを語る。
「32歳、そして33歳を迎える私ですが、まだちょっと体だけ大人になって中身は33歳に追いついていないんですけども、14歳の頃から芸能活動を始めて(注:ハロプロエッグ加入が2007年)、デビューして、今までこう歌ってきて、とても大人な曲になっています。ぜひみなさんたくさん聞いていただけたらなと思います」。
そんな吉川友の言葉とともに、2025年最初のライブは幕を閉じた。変わりゆくもの、変わらないもの。その両方を抱えながら、吉川友の音楽は、また新たな一歩を踏み出そうとしている。

