吉川友、新曲「どんな時も笑顔で」は中島卓偉提供

『吉川友 10th Anniversary LIVE きっかけはMe!』

吉川友が、デビュー10周年を記念したライブ『吉川友 10th Anniversary LIVE きっかけはMe!』を5月22日に表参道GROUNDにて開催。中島卓偉が提供した新曲「どんな時も笑顔で」を初披露した。

 

本来、きっかの誕生日である5月1日に開催を予定していた本公演。しかし、政府による「緊急事態宣言」の発出を受けて開催は延期され、5月22日に実施となった。当初からのスケジュール変更もあって、きっかバンドも最近のレギュラーメンバー(ベース:有島コレスケ / ドラム:GOTO)に加えて、ギターが楢原英介、キーボードが西野恵未というスペシャルな布陣で挑む。もっとも、両者とも過去にきっかのバックで演奏した経験を持つ名うてのプレイヤーたち。今回もまた、バンドならではのサウンドと吉川友のボーカルの高次元での融合が期待できるというものだ。

 

~Ignition~

今回セットリストを組み立てたマネージャー曰く「攻めました」というライブは、オープニング映像からスタート。オルゴールアレンジされたデビュー曲「きっかけはYOU!」が流れ、歴代のMVや写真などのコラージュがステージに設置されたスクリーンに映し出される。さらに会場を揺らしたのは、懐かしの「~Ignition~」。車のエンジンなどを始動させるための点火装置の名前を持つこの曲は、きっかがオケでライブを行なっていた頃にオープニングSEの役割をはたしていた。この曲を耳にしただけで脊髄反射的に拳を突き上げたり、声を出したくなってしまうという友フレも多いはず。文字通り、開演前の会場に燻る興奮と熱狂に“点火する役目”を担っていたのがこの曲だ。

 

揺らめく照明の中で、吉川友だけがステージイン。マイクを前に歌い上げたのは、彼女がソロデビューを発表(ハロプロエッグの研修課程を修了)後、お披露目の場となったハロプロ新春公演『Hello! Project 2011 WINTER 〜歓迎新鮮まつり〜』で披露された「冬空花火」だった。

 

デビュー当時を彷彿とさせる振りとともに歌い上げていく吉川友。しかし、その指の動きひとつひとつが当時よりしなやかに見えるところに10年の月日を感じる。いい意味で肩の力を抜いてステージで歌えるようになった「冬空花火」は、歌詞に綴られた情景をより鮮明に描き出す。

 

吉川友、新曲「どんな時も笑顔で」

 

今回の衣装は、「美輪明宏さんみたいでご利益ありそう。」と、彼女自身が配信中に言い表していた10周年を記念して撮影されたアーティスト写真で着用しているシルバー調のもの。実際にステージ上で照明に照らされると、生地に付けられたスパンコールがとてもきらびやか。ちなみに正面から見るとミニスカートのようにも見えるが、きっかがリハーサル中にスツールに腰を下ろしていくら足を投げ出したり、足を開いたりしても安心安全なショートパンツ(だからといって、そんなことをしてもいいというわけではない)。また足といえば、今回もヒールは衣装と同系色の相当高さのあるもの。デビュー当時の吉川友では履きこなせない、たとえ履いたとしてもビジュアル通り“背伸びしている”だけにしかならなかった、10年経った吉川友だからこその要素が各所にちりばめられていた。

 

「みなさん、あらためましてこんにちは。『吉川友 10th Anniversary LIVE きっかけはMe!』にお集まりいただきまして、ありがとうございます。元気ですか? (客席を見渡して)わー、元気そう。私も見ての通り、すごく体も心も元気です。今日はですね、5月1日の私のバースデー&10th Anniversaryライブの“振替休日”公演でございます。みなさんよく日程変えられましたね。ありがとうございます。うれしいです。……暇なんでしょうね、みんなも。よかった(笑)」

 

きっかはさっそく軽いジャブのように観客いじりを繰り出して、会場の笑いを誘う。

 

「東京は外出自粛とか“県外またぎっか”は遠慮して、とか、なかなかライブに来ることができない状況ではあると思うんです。でも、やっぱり私も、そして多分みなさん……世界中のみなさんも生の音楽を求めていると思うので、ルールや規則をちゃんと守った形で今後もライブをさせていただきたいな、と。“百合子先生”にはそう思っております。そんなわけで、今日はぜひ楽しんでいってください。」

 

続けてきっかの曲振りで、聴き慣れたイントロがフロアに響く。デビュー曲「きっかけはYOU!」だ。最近はサビ以外ではあまり見られなくなったデビュー当時の振りが、今回はオケだからか、はたまた10周年の記念ライブだからなのか、“ゆるめなニュアンスで”復活。イントロやアウトロなど“完璧に復活”ではないものの、10年前から吉川友を応援している古参のファンからしてみたら、それでもテンションが上がるというもの。そして同時に、声を出せず、マスクをして座ったままの状態でライブを鑑賞しないといけない現状に歯がゆさを覚えたことだろう。

 

私がdieした時は、この形で

新曲「どんな時も笑顔で」

5月1日で29歳となり、5月11日にはソロデビュー10周年を迎えたことをきっかが報告すると、観客からは温かい拍手が送られる。ところが彼女は、今回のライブのために用意されたオープニング映像について「ぶっちゃけ、ぶっちゃけよ。お葬式で遺骨を焼く前に流れている音じゃない?」なんてことを言い始める。自身のお祝い公演だとしても、そこにそぐわない発言をぶっこんでいくスタイルは、……まあ、いつもの吉川友だといえば、それ以上でもそれ以下でもない。

 

「私が死んだ時……死んだ時って言ったらちょっとアレだから、私が“ダイ”した時、……“ダイ”した時っていっても、(大した時とは)違うよ(笑)。英語の。英語で“死ぬ(die)”って言ったの。dieした時に、焼く前にはこの映像の形で送ってほしい。……でも私、まだ29歳だから、みなさんの方が先に逝くと思うんですけど。もしみなさんの中で私よりも年下の方、スタッフさんとかも20代の子とかが入ってきてるんで、私がdieした時は、この形で“祝って”ほしいです。」

 

周年ライブのMCで自身の理想の葬式を話すアイドルは、世界広しといえどもこの人くらいである。ちなみに余談だが、彼女は25歳のバースデーライブの時には「ファンのみなさんに“看取られながら”ライブができて、本当に今、“絶好期”。」という、やっぱり終活みたいな迷言を残している。

 

10周年って、あっという間

そんなトークを一通り繰り広げたのち、バンドメンバーがステージ上へと呼び込まれる。全員の準備が整ったところで披露されたのは、「暁 -yoake-」。西野恵未の優しいピアノの音色とともに、スツールに腰を下ろしたきっかは、目を閉じて、静かにやさしく歌い始める。そしてその歌声に、各パートがそっと寄り添い始める。女優としての評価も高い吉川友が歌うセンチメンタルなバラードは、極上の響きとなってオーディエンスの耳元へと届けられた。

 

「次は、音がたくさん出る曲を。」と、きっかが立ち上がると、ガラリと雰囲気を変えて「DISTORTION」「恋」「NEO SUGAR SUGAR YOU」「Yellow Butterfly」とパワー系の楽曲で押していくコーナーへ。この緩急の付け方も、きっとマネージャーのセットリストのこだわりのひとつなのだろう。歓声をあげることができない代わりに、観客が手にする黄色のペンライトひとつひとつが、静かに、しかし大きく振られる。声が出せないからといって観客が楽しんでいないわけではなく、むしろ盛り上がっていたという事実は、そのいくつもの力強い黄色い光の動きを見るだけで明らかだ。

吉川友

まるで手数王かのように乱れ打つGOTOのドラミングが、恋愛時の鼓動を思い起こさせる「恋」。軽快な楢原英介のギターソロに、有島コレスケの奏でるベースラインがぐいぐいと曲を引っ張る「NEO SUGAR SUGAR YOU」では、会場全体を、なんだか夏を先取りしたような陽気な雰囲気に包んでいく。そして、2019年に吉川友が初めて自ら作詞をした「Yellow Butterfly」(作曲は「こんな私でよかったら」をはじめとした吉川友の代表曲を手掛けたサカノウエヨースケ)。自身のこれまでとこれからを詰め込んだ、この“走り出す シャイニングビート”で、会場のボルテージはついに沸点へと到達するのだった。

 

横断幕の制作費を確認する吉川友

「10周年って、あっという間だったなっていう印象はある。思い出もたくさんあるけど、何から話していいのかわからない。……結構、吉川友はデビュー当時から海外にたくさん行かせていただいたりとかして、海外にいるファンの方とかもたくさんいるので、またコロナが落ち着いたら海外遠征だったり、海外のイベントとか出たいなって思います。」

 

5月は配信を通して頻繁に発信を行なっていた彼女。そこで話し尽くしたのか、周年ライブでこれといって話すネタがないらしく、トークはまとまらない。それを見かねたのかどうかは定かではないが、ここで、最前列の友フレたちが、この日のために作成した吉川友のメモリアル横断幕をサプライズで広げてみせる。「やだぁー」と、きっかは年相応、もしくは少し年上の女性のようなリアクションをとって、この横断幕の制作にいくらかかったのかを訊ねる。先日の配信で「プレゼントの値段が気になって調べてしまう」という話をしたばかりの吉川友の有言実行。ただし、それはまったくもって余計だ。

吉川友 周年

 

客席から横断幕を受け取ると、「あれやりたい。『バカ殿様』でよくある『あ〜れ〜』ってやつ。」と言いながら、きっかは横断幕をそのまま自分の体に巻きつけていく。そして次のコーナーのためにスタンバイしていたキーボードの西野恵未を呼び寄せて横断幕の端を渡すと、無駄にくるくる回る気満々。しかし、そんな気合いのほうが空回りして、きっかは回る方向を間違え、むしろ西野がきっかに引き寄せられてしまうという、想定を超えた謎の展開で会場の笑いを誘っていた。

 

吉川友 周年

素養がないと成立しないパフォーマンス

「グループでデビューしてそうな、いい感じじゃないですか? グループ名は“菜の花(菜*花?)”みたいな。」

 

時代劇コントのような展開を挟んで、照明も少し落とし気味に、次はキーボードの西野恵未と吉川友による女同士ふたりのステージ。「ありのままの I LOVE YOU!」と「運命」をピアノと歌声だけで披露する。それはごまかしが効かないため、その辺のアイドルでは成立させることができない、ボーカリストとしての素養がないと成立しないスタイル。前回のライブレポートでしっかり触れたので今回はさらりと記載するにとどめるが、本当の意味で歌で勝負できるのは、吉川友の強烈な個性であり大きな武器だ。

新曲「どんな時も笑顔で」

 

再びバンドメンバーがステージに勢揃いして、今度は松浦亜弥の「LOVE涙色」のカバー(2012年にリリースしたカバーアルバム『ボカリスト?』収録)と、デビューシングル「きっかけはYOU!」のカップリング曲のひとつだった「さよなら涙」を聴かせる。

 

時に、周年ライブのようなメモリアルな公演には、懐かしさと新しさの交差点がいくつも生まれ、観客側も当時の思い出との再開をはたす。あの頃があったからこそ今がある。今があるからこそ次のポイントでまた過去として振り返えることができる。コロナ禍で活動を休止せざるを得ないグループがいくつもある中で、こうやって吉川友の歌声とともに懐かしい日々に定期的にめぐり合えるというのは幸せなことなのかもしれない。

 

「MCパッション!音楽セッション!」

MCが空回りし続けたきっかから、そんな名言(迷言?)も飛び出す終盤。ステージは再びアップテンポのナンバーをガッツリと並べていく。「チャーミング勝負世代」でのスリリングなサウンドがオーディエンスを刺すように貫き、友フレ人気の定番曲「こんな私でよかったら」で、オーディエンスに備わっている熱量と満足感、一体感のフェーダーは一気に押し上げられる。ごきげんなリズムに煽られるダンスフロアのように、客席の黄色い光も一際大きな軌跡を描く。そしてガラッと女の気だるさと色気を放出する「TABOO」で、マイクスタンドにもたれかかるように手を伸ばし、音に揺れながら、きっかは大人のおしゃれなステージをこれでもかと見せつけた。

 

吉川友、新曲「どんな時も笑顔で」は中島卓偉提供

「『これから何年きっか歌っていくの?』ってよく言われるんですが、あと20年!……て言ったら大変だから、“できる限り”。最近、確証ってできないじゃないですか。『したい!』とは言うけど、実際はできない、こういう(コロナの)状況だったりとかもあるので。『これします』『ここまでします』っていう約束はできないですが、私もなるべく元気なうちは歌っていきたいと思います。あと何度も言っていますが、今年は10周年なので、個人的には写真集を出したいと思っています。そのためにまずは体を絞らないといけないんですが、最近は加工の技術でなんとでもできちゃうんで、加工の技術にも頼りつつ、自分でも頑張りつつで。あと『アルバム出して!』ってよく言われて、私自身もそうだなと思います。最近は配信の形でここ1、2年デジタルシングルを出させていただいているので、それも含め、さらに個人的にはデビュー当時のオマージュっていうんですかね。「さよなら涙」とか再録音……“上書き録音”みたいな。プラス新曲で、“写真集付きミニアルバム”とかよくないですか? 受注発注とかでもいいかもしれないし。いずれにせよ、今年は何か形が残るものを残せていけたらなと思っていますので、ぜひみなさん、楽しみにしていてください。」

 

新曲「どんな時も笑顔で」

公演の最後に用意されていたのは、本来、5月1日のライブで披露することになっていた新曲「どんな時も笑顔で」だった。今回の作品は、ここ数年はハロー!プロジェクトの各グループへの楽曲提供でファンからも絶大な信頼を得ている中島卓偉が提供したもの。吉川友×中島卓偉という組み合わせは、これが初めてだ。

 

「歌詞が前向きというか。みんなと私とこれからというか。そんな前向きなソング」というこのロックチューンを、生バンドに負けないパワーできっかは歌いあげる。もしまたライブハウスで声出しOKな状況がアフターコロナの世界に訪れた際には、きっと会場を埋め尽くした観客が拳を上げ、声を上げてステージとフロアがひとつになる。そんな熱量と魅力を持った新曲が日の目を見た瞬間だった。

 

「みなさんのおかげで、10年間、マイクを持ち続けることができました。これからも10年、20年とみなさんと楽しいことをたくさんしていきたいと思います。」

新曲「どんな時も笑顔で」

新曲「どんな時も笑顔で」

 

吉川友の新曲「どんな時も笑顔で」は、7月7日にデジタルシングルとしてリリースされることが発表されている。

◆吉川友 オフィシャルブログ
◆吉川友 Twitter

吉川友の関連オリジナルコンテンツ(画像、記事)

No more articles