樋口なづなが“なづなの日”リバイバル公演

音楽業界に貢献する(?)“なづなの日”

2021年11月13日、SUPER⭐︎GiRLS樋口なづなのソロライブ(リバイバル公演)、そして門林有羽と長尾しおりの生誕イベントという3つの異なるスパガのファンクラブイベントがパームス秋葉原にて開催された。

 

樋口なづなソロライブ『なづなの日リバイバル公演 ~子供じゃないもん!twenty~』は、今年7月27日の“なづなの日”に開催されたソロライブのリバイバル公演。なお、前年のソロライブは、新型コロナウイルス感染症の流行拡大を受けて、SHOWROOMでの無観客配信ライブだったが、今年からはガイドラインに準拠した形での有観客での実施となっている。

 

この日、午前中はなづのリハーサルからスタートする。もっとも、リバイバル公演ということで、セットリストは一部変更になったのみ。リハも特に問題なくスムーズに終了する。「入念なリハーサル」と対極にあるような表現なので、中には「それで大丈夫なの?」と心配する人もいるかもしれない。ただ、万が一、仮に何かトラブルが起こったとしても、まあこの人のこのキャラクターならなんとでもなる。そんな謎の安心感というか、安定感というか、頭の回転の速さというか、すべてをネタにしてしまう肝の据わり方というか。一言で言えば、みんなに愛される夢の国のネズミみたいな存在なので、ソロ公演に対しても大人たちは特に心配はしていない。……いや、本人は朝まで寝れないくらいには不安な気持ちもあったっぽいが、大人たちからすると、この子がちゃんと現場入りして体調も万全なら、あとは幕を上げるだけ。そしてライブが始まってしまったら、あとは野となれ山となれ。本人が歌詞を飛ばそうが、仕込んできたネタがウケなかろうが、それも全部引っくるめてのこの日のライブ。そんな感じである(そして仕込んできたネタが微妙な空気しか呼び込まなかったことは後述)。

 

スパガ 樋口なづな

 

■ 音楽業界全体に貢献する(?)“なづなの日”

 

ファンクなイントロがオンタイムで会場を埋め尽くしたJuice=Juice「好きって言ってよ」にて『なづなの日リバイバル公演』は開幕。マカロニえんぴつ「ブルーベリーナイツ」、CY8ER「サマー」と、今年の“なづなの日”公演で披露された楽曲が冒頭から並ぶ。この日のなづの衣装は、SUPER☆GiRLS「わがまま GiRLS ROAD」にて渡邉幸愛が着用していたもの。写真に撮ると、どことなくなづが幸愛ちゃんのように見えてしまうのは、かといって単に衣装を着ていたからではないだろう。スパガはグループが新体制となり、新メンバーも加入。後輩ができたことと、それによって再認識することになったグループの中に自分という存在がいる意味。当時の渡邉幸愛が背負っていたものを自分もまた背負っていかないといけない。そんな覚悟や決意が生まれたことが、自然と写真にも落とし込まれたのであろう。

 

アイドル界隈には「自分の推しているアイドルの曲しか聞かない」という、音楽的視野の狭い残念な人たちが一定数いる(まあ、そういう人たちは音楽以外の視野も狭い)。よく、その推しの子が巷で流行っている音楽を知るために「みんなは最近どんな曲を聴いてるの?」「おすすめの曲はなんですか?」と配信やSNSなどでファンに質問を投げかけた際には、自分たちの持ち歌のタイトルが殺到してしまい、げんなりした表情を隠しきれていない様子も時々見かけることがある(笑)。そんな中で、工藤遥を崇拝し、ハロー!プロジェクトを始めとして、いろんなアイドルが好きなことを公言。その上、確かな歌唱力も備えている樋口なづなのような子が自分の好きな曲を中心にステージで披露する機会を定期的に開催しているということ。これは、アイドル業界や音楽業界全体を盛り上げることにも役立っているのかもしれない。なぜなら、なづのファンの中には、これをきっかけとして、彼女の歌った曲のオリジナルに触れる人も出てくるだろうし、そこからさらに別の音楽に触れていく人たちもいる。もしくは、次になづが好きと言ってくるであろう曲を先に聞いておいて、彼女の口からその曲名が出たときに、一緒に共感し、曲を知らないファンにはできないコミュニケーションで彼女から好感を持たれる人たちも出てくる。

 

“なづなの日”のソロライブは、単に樋口なづなが好きな曲をカラオケボックスではなくステージで、お客さんの前で歌うという、言ってしまえば、樋口なづなのための、樋口なづなによるイベントだ。しかし同時に、実は本人が想像しているよりも、もっと音楽業界全体にとって有意義なものでもあるのだ。多分。

樋口なづな

 

■ みんなはDDなんです

 

「今日は、とってもとっても素敵な一日にしましょう!」と呼びかけての「SUPERSTAR」。かつてiDOL Streetに存在したCheeky Paradeの曲であり、その中でも(メンバーの性格とは正反対の)「かわいい曲」と言われたとか言われないとかの名曲は、過去の記憶を持っている人たちを中心に客席で盛り上がりを見せる。もっとも、当時を知らないファンからすると、この曲はなづが歌うキュンキュンソングであり、そのパフォーマンスを客観的に観ていると、もはや彼女のオリジナル曲にしてしまっていいのではないか、とさえ思えてくる(オリジナルが手放したのだから、なおさらである)。

 

「ちょっとお水飲みます。後ろ姿見てて。後ろ姿ね、リボンが付いてるの。見てこれ。かわいい?」

 

序盤の4曲を披露して、なづは「なづなの日リバイバル公演 ~子供じゃないもん!twenty~」のタイトルの理由などを語りつつ、わずかなブレイク。コロナ対策で客席は声こそ出せないが、代わりに拍手などで反応する。

 

TikTokなどで話題になった「シル・ヴ・プレジデント」では、宣誓のフレーズをなづなアレンジでお届け。しかしながらハプニングは2コーラス目の宣誓で発生する。

 

宣誓!私が大統領になったら

みんなのことを絶対幸せにするのにみんなはDDなんです

…どう思いますか?

 

なづは客席側に笑いが起こると踏んでいたのだが、実際はというと、客席側では「みんなはDDなんです」が図星だったのか、はたまた自ら口にレジンを流し込んだのかという具合に、非常にバツの悪い表情を浮かべる人たちが続出。これには逆になづが笑うしかないという、とんだ不祥事となってしまっていた。

樋口なづな

 

■セットリスト入りをはたした「スキちゃん」

 

さらに渡り廊下走り隊「完璧ぐ〜のね」を挟んで、藤本美貴の名曲「ブギートレイン’03」へ。アイドル界隈で藤本美貴の楽曲をセレクトするとなった場合、まず候補に上がるのは「ロマンティック 浮かれモード」であり、その割合は、Buono!の「初恋サイダー」を安易にカバーする地下アイドルの選曲と同じくらいである。ちなみにその次の展開として「ミキ様ミキ様オシオキキボンヌ!」のところを「ナヅ様ナヅ様オシオキキボンヌ!」へと変更することは想像に難くない(いやまあこれは歌っている本人ではなく、大の大人がの観客側に求められる対応力だが)。しかし、そんなわかりやすいセレクトではなく、あえてここで「ブギートレイン’03」を入れてくるあたりが、樋口なづなのハロヲタとしてのセンスであり、音の最後を藤本のように少ししゃくり上げて歌ってみせるのが本物感の現れ。ステージを移動しながら会場を盛り上げるなづの姿をカメラで追いながら、2013年3月にZepp Tokyoで行なわれた『藤本美貴10周年記念!大感謝祭ライブ!「一日限定!完全復活!ミキティー」』の、赤い藤本美貴Tシャツを着てくればよかったなとちょっとだけ後悔せずにはいられない。

 

いずれにせよ、藤本美貴『MIKI①』はアイドル史上に残る名盤である。

 

さらにここで、前回公演を観た人にとっても新鮮な、本公演で初めてセットリスト入りをはたしたスマイレージの「スキちゃん」が披露される。もちろんこの曲のコールのところは(観客は声が出せないものの)「スキちゃん! スキちゃん! なづちがスキちゃん!」に変更。観客のスマイルがマイレージのようにどんどんなづのもとに貯まっていく。

 

しかしながら、彼女が所属するSUPER☆GiRLSもまさしくそうだが、メンバーの卒業と加入を繰り返して形を変えつつ、長きに渡って活動を続けていくグループの場合、メディアはよく、現メンバーに対して卒業したメンバーや、過去のグループの“意志”や“遺伝子”を継承させたがる。では、当時リアルタイムでファンだった人たちがのちにステージに立つ側になった場合、その過去の意志や遺伝子は、その人には継承されていないのだろうか。リアルタイムを知らない現メンバーと、イチファンとしてリアルタイムを知っている人だと、はたして、どちらが当時の想いを継承しているのだろう(いやまあ、どちらのほうがより継承しているから偉いとかそういう話ではないんだけど)。

 

懐かしい気持ちに浸りながら、なぜかそんなことを考えてしまう。

 

 

■撮影OKな「LOVE涙色」からフジファブリック、そして「夜明けBrand New days」

 

そして事前にアナウンスされていたとおり、観客が写真撮影OKな1曲「LOVE涙色」へ。客席にはスマホを手にする人から、一眼に“タワー130本分”の長玉をつけてステージを狙うツワモノまで出現する。

 

「すごい、デカいカメラの人、多くね? この日のためにカメラ買った人とかいるよね。とんでもねーな。この距離だぜ? 大丈夫?」

なづなの日

「ここは野球場か、被写体は大谷翔平か」というような巨大レンズおよびレンズの群れを目にして、興奮気味につい口が悪くなるなづ。パフォーマンス中は、会場側もそんな彼女の姿を撮りやすいようにステージの照明を明るめにして、なづも歌いながらステージ上を移動し、しゃがんだりしてポーズを決めていく。

 

ここからはアイドルをちょっと離れて、フジファブリック「若者のすべて」とスピッツ「チェリー」を披露してみせる。なづがなぜフジファブリックを好きなのか。どこかで本人が語っていた気もするが、きっと生前の志村正彦による瑞々しい感性と大人になっていく時期だからこそ綴れる言葉とメロディーが、彼女の心を掴んで離さないのだろう。

 

そしていかようにも受け取れる行間が織り込まれた歌詞だからこそ、彼女がこの先、歳を重ねて再びこの歌を口ずさむ頃には、2021年の樋口なづなでは気づけなかったものに新しく気づくだろう。

 

それが、音楽というものの興味深さであり、凄さであり、素晴らしさである。

 

再びアイドルソングへと戻って、わーすた「詠み人知らずの青春歌」と、そして本編最後はベイビーレイズJAPANの「夜明けBrand New days」。どちらも今回の公演のためにセットリストに組み込まれた曲だが、特に「夜明けBrand New days」はアイドルファンだけでなく、アイドル本人たちからもリスペクトを集める名曲でもある。

 

惜しまれつつ活動を休止したベイビーレイズJAPANのあの日の姿と、今まさに駆け足の季節の真っ只中にいるステージ上のなづの姿が重なる。言葉のひとつひとつに込めた想いは、きっと両者ともに同じはず。もっと輝くため、もっとビートを響かせるため、当たり前ではないことを当たり前のようにできていることへの感謝の気持ちで会場を揺らし、樋口なづなは今年のソロライブの本編を締めくくった。

なづなの日

 

■ 樋口なづなとファンの関係性

 

観客からの拍手によるアンコールを受けて、暗転していたステージに再び明かりが灯る。そして彼女のフィーチャー曲として2019年にリリースされた「White Melody」とともに、これまで写真や映像でしか観たことがなかった姿の樋口なづなが登場する。それは、コロナ禍の2020年7月27日にオンラインライブの形で開催した『樋口なづな ソロオンラインライブ「明日を信じて」』で着用したワンピースに麦わら帽子という出で立ち。なづは、まさかこの衣装を着てファンの前で歌えることができるとはという喜びを噛み締めながら歌う。……もっともファンはというと、ちょっとなづの想いとは事情が違ったようではある。

 

衣装をお着替えして「White Melody」をお届けしたんですけど、この衣装覚えてるよーって方、いますか?(会場を見回す)……思ったより覚えてないですね。『なんで着替えたんだよこの人』ってなってるのかもしれないですけど(笑)。約1年半前の“なづなの日”のソロライブが配信ライブだったんですけど、“むきゃんきゃ、むきゃんきゃく?”なんだっけ?“無観客”か。無観客のソロライブで着させていただいた衣装なんですけど、みなさんの前でお披露目する機会が一度もなく、ずっと私のお家で眠っていたので、せっかくならと思って。

 

なづの気持ちとなかなかシンクロしない観客。こう書いてしまうと、なんだかなづが可哀想なアイドルのような見え方になってしまうが、誤解してはならない。この子の配信では、これはよくあること。しかも大抵の場合、なづがファンを置き去りにして自分の好きなことをひたすら楽しそうに話し、そしてひとりで満足している。

 

でも、言ってしまえば、それが樋口なづなと彼女のファンとの関係性だ。無理に共感を求めるでもなく、それについて不快感を持つわけでもない。強いて気持ちを表現するなら「よくわかんないけど、なちゃんがなんだか楽しそうだから、ま、それでいっか。」である。

 

『なづなの日リバイバル公演 ~子供じゃないもん!twenty~』本当にありがとうございました。また皆さんの前でソロライブができるように頑張っていきたいと思いますので、これからもSUPER☆GiRLSと樋口なづなの応援、よろしくお願いします。ありがとうございました! サイリウムもたくさん、ありがとうございました。みなさん、大好きです。」

樋口なづな

なお、本公演中にアナウンスがあったように、SUPER☆GiRLSのYouTubeチャンネルでは、「樋口なづなが歌ってみた」動画がまもなく公開されるようである(なお、最新の動画は『イカゲームやってみた』である)。

 

◆樋口なづな Twitter
◆樋口なづな Instagram
◆SUPER☆GiRLS オフィシャルサイト

◆スパガ・樋口なづなのボーカリストとしての片鱗 – 2020.07.27 ソロオンラインライブ『明日を信じて』-
◆SUPER☆GiRLSに関連するオリジナルコンテンツ(写真、記事)

 

なづなの日

No more articles