8月1日(日)表参道GROUNDにて『吉川友 10th Anniversary LIVE 2021の夏きっか』が行なわれた。
■普段よりおしとやかな吉川友(そして即撤回)
“夏きっか”と題されている本公演。かねてから告知されていたように、吉川友は浴衣姿でステージに登場する。きっかの浴衣といえば、“(夜の)お店の娘”のような短い丈の浴衣を過去のイベントで披露したことはあったものの、今回は本人曰く“ガチガチ”という、いわゆる普通の、オーソドックスな丈のもの。むしろ黒地にいくつもの大輪の花が大胆に描かれて、大人の色気を存分に演出しているようですらある。
そしてきっかは、この浴衣に合わせて髪型もアップにし、うなじをチラ見せ。そんな佇まいだと、歌唱中の仕草まで普段よりおしとやかな気がしてくるのが不思議なところである。
「あまいメロディー」「いいじゃん」「恋」と立て続けに披露した後のMCで、きっかはステージ脇に設置された配信用カメラを早速見つける。そして相変わらず浴衣の裾をめくって内側の何かを見せようという仕草で挑発してくる。
数行前に記した「普段よりおしとやか」という表現をこんなに早く撤回することになろうとは、本稿を執筆しながら驚きである。
「このお仕事やっていて、グラビアの撮影でちょっと露出した感じで浴衣を着崩したりというのはあるけど、私、プライベートでは浴衣、一回も着たことないんです。浴衣着て花火大会に行くってことをやったことないから、やりたいなって思っていたんですけど。今回はちょっと大人っぽい、黒の浴衣を用意していただきまして、着させていただいております。どうですか?……(帯が)きっつい。」
着付けの際にスタイリストときっかの間で繰り広げられたという、帯締め限界への駆け引き。それは、どこまで締め付けることができるかのチキンレース。「私も見栄を張って細く見せたいからさ、すっごいきつくて歌えなくても「大丈夫です」って言っちゃうタイプの女ではある。」ときっかは自身について語っていたが、幸いなことに歌唱への影響はなさそうだ。
■だいぶちょっと“ムーディ勝山”
ベースラインや鍵盤から香ってくるジャジーなサウンドによって、妖しい空気(本人曰く、「ムーディ勝山、もしくは六本木のおしゃれなバーで流れているおしゃれな感じ。」)を纏った「ありのままのI LOVE YOU!」をクールに歌い上げたかと思えば、力強い疾走感を得た「ダーリンとマドンナ」は明るく歌う。ギターの鋭いディストーションがアクセントの「こんな私でよかったら」は、スツールに腰をおろしているからこその、少し肩の力を抜いたように披露。いずれも今回、バンドによってリ・アレンジが施されていたが、吉川友本人も、これら“新しい洋服を着せられた楽曲”に大変満足げである。
「『ありのままのI LOVE YOU!』は、だいぶちょっと“ムーディ勝山”って言ったらいいのかな。六本木とか西麻布とか銀座の高層ビルのバーで流れていそうな感じ。なんて言ったらいいんだろう。難しいですよね。私はムーディ勝山しか思い浮かばないですけど、おしゃれな感じ。昔の音楽のリズムや音も入ってきているじゃないですか、知らんけど。」
「『ダーリンとマドンナ』なんて、スーツの青山のCMで流れてそうじゃない? 私だけ?「新生活、頑張ろう!」って、歌ってて思いましたよ。(バンドのほうを振り向きつつ)ちょっと弾いてみてください。青山のリクルートスーツ、春に流れるCMの楽曲です。では、目をつぶって聞いてください。(再度バンドに弾いてもらいながら「新生活、頑張ろう!」と吉川友が実演)……私だけ? ごめんなさい。感覚違うみたい、あなたたちと。私、リハのときからスーツの青山に売り込みに行こうと思ってたのに。」
なお、きっかがアレンジ(リ・アレンジ)した楽曲を最近すっごい好きなのには、きっかけがあったとのこと。ここではこれ以上踏み込んだ発言こそなかったが、何かしらの作品を制作しているであろうことは容易に想像できたはずだ。
■“アイドル史上前代未聞の超長い曲”再び
中盤は、「URAHARAテンプテーション」や「アカネディスコ」「NEO SUGAR SUGAR YOU」といったアップテンポな楽曲を並べていく。なお、セットリストに目を落とすと、これら楽曲が披露されたタイミングはライブの後半から終盤となってしまうのだが、中盤と記載しているのは、ラストにあの大作が久しぶりにフルサイズで披露されるからである。
17分25秒の“アイドル史上前代未聞の超長い曲”。3人の作詞家による全3楽章からなる組曲。シンセパッドの和音に載せて、ステージに上に浮かび上がる吉川友が、女の一生を一輪の花に見立てて歌い上げていく。プログレ調の『「花」第一楽章 〜ヒナゲシのように〜』から、台詞を挟んで、今度は6/8拍子の『「花」第二楽章 〜アネモネの恋〜』へ。大森靖子の言葉選びが吉川友の歌声によって音楽へと形を変える時、言葉は耽美な世界を描き出していく。さらに、michitomo渾身の『「花」第三楽章 〜コスモスへの祈り〜』へ。シャウトを使い分けながら、サウンドの洪水の中で永遠を祈る。
吉川友の熱演に会場は引き込まれ、軽いトランス状態にも似た感覚を受け止めながらライブはその幕を下ろした。