3月20日、武田舞彩が無観客ライブを初台のアーティストラウンジ(Artist Lounge TOKYO)にて開催。無観客ライブはインスタ(インスタライブ)で配信された。
ファンならはご存知のとおり、実はこの日、舞彩は代官山Loopにて3rdワンマンライブを予定していた。しかしながら、昨今の新型コロナウイルスの感染拡大の状況を鑑みて、開催は6月21日へと延期。代わりに行なわれたのが、今回の無観客でのライブ生配信だった。
会場となったアーティストラウンジは、HOTEI、コブクロ、福山雅治、MIYAVI、TK(凛として時雨)など数々のトップアーティストをサポートしてきたヒロ細沢がオーナーを務めるテイラーギター専門ショップ。イベントスペースとしても抜群の音響環境を備えており、武田舞彩のコアなファンには、ファンクラブ限定トーク&ライブ『武田舞彩の秘密基地』の会場としても知られている場所だ。
この日、舞彩は配信開始の2時間前となる17時に会場入り。いつものように、まずは店舗スタッフに愛器・K24ce(通称ひじき丸)のコンディションを確認してもらい、早速、配信に向けてのセッティングとリハーサルを開始する。今回のライブ生配信は、ロサンゼルス留学中にサンタモニカ・サードストリート・プロムナードで行なっていたストリートライブを彷彿とさせるInstagramにて実施。言ってしまえば、LAの時のようにスマホを三脚に立てて、外カメをステージへと向ければセッティングは終了なのだが、それだけではないのが武田舞彩のこだわり。クローズドのアカウントで何度もテスト配信をして、映像と音を自ら入念にチェック。ボーカルとギターのバランス、ディレイのかかり具合など、細部まで調整を行なっていた。
その後、舞彩から我々スタッフ陣への近況報告や、本人にとって重要な“コンビニのからあげ串を食べる時間”などなど挟みつつ、いよいよライブ開始のタイミングを迎える。配信開始のボタンを自ら押して、そして舞彩はステージへ。
「インスタライブはロサンゼルスでストリートライブでやっていた時以来、3年ぶりなんですけど、今日は普通にMCとかも込みで楽しんでいただけたら。」
そんなMCから、まず初めに披露されたのは「東京」。激しくリズミカルなストロークで体を揺らしながら舞彩が歌い上げると、赤を入れて少し落ち着いたミディアムボブの毛先もビートを刻む。
「無観客でのライブはなかなかないのですが、人がいないライブをすると、みなさんがライブに来てくれるありがたみを感じます。」
1曲歌い終わって、拍手が起こらない会場(インスタライブの画面上には、視聴者からの「8888」の文字が並んでいたが)に、本人は思わず苦笑いを浮かべる。
時に3月20日の19時といえば、ここ数日、SNSを賑わせていた『100日後に死ぬワニ』最終回となる100日目の更新予定時間でもあった。舞彩もその結末が気になってはいたようだが、とはいえ『ワニ』の話もほどほどに、年明けの渋谷で初公開された「Truth Proof」を披露する(しかも「生きていると自分が生きている意味を考えてしまって葛藤も多いんです。そんな気持ちを書いた曲を歌います。『100日ワニ』の作者さんも、“当たり前の日常なんてない”って気持ちを込めて描いたんじゃないかなと思うし、自分もそれを意識して生きていきたいと思います。」と、『ワニ』の話と次の曲とをリンクさせたトークをしながら)。「Truth Proof」は、シャウトする際に少しマイクから顔をそむけつつ、指板の上を蜘蛛のように指を跳ねさせながら、目まぐるしくコードを展開していく作品。まさに熱演という迫力のステージングに「凄いよ!」「かっけぇな」「本当にかっこいい!」というコメントが殺到した。
100人ちょっとの視聴者を前に歌ったのが「なす」。本人は、笑いながら愉快に「今日も牙を剥きそうになった」と明かしていたが、とはいえ昨今の彼女は己の感情そのままに牙を剥くのではなく、自分がもしここで暴れた場合、周りにどんな影響が出るかを考えることができるようになったらしい。それはつまり、彼女の中で以前よりも気持ちに余裕が生まれた証左。事務所を移籍して、この1年に渡って地道な努力を続けた結果、昔よりも“未来”の輪郭が鮮明に見えてきた今だからこその変化とも言える。
さらに舞彩が、「なす」と並んで強烈な鋭さを持った「あげだしっ」を続けると、配信を視聴していた元グループのメンバーも「かっこよすぎる(泣)」と思わずコメントしてしまうほど。アイドル・武田舞彩しか知らない人、アイドル・武田舞彩のイメージのままでいつまでも立ち止まっている人が、この2曲を初めて耳にしたら卒倒するかもしれない。しかし、過去に何度か書いたように、これが、これこそが武田舞彩のリアルである。
生配信ライブは、本人曰く「“みんなの大好きなドロドロした恋愛”を綴った「Hurts」に、自分の道を信じて突き進めば光が見えるはずという想いを歌にした「Goin’ my way」を歌い上げて終了する。
今回の生配信ライブは、無観客であるがゆえに、舞彩はいつもより緊張したという。同じ空間を共有していれば、空気を震わせる音の振動を通じて気持ちは直接つたわる。しかし、スマホの向こう側の人たちとは、同じ時間こそ共有しているものの、空間は共有していない。この状態でどうやって彼女は歌を、熱量を、想いを届けるか。
いつものステージではあったが、いつもと異なるステージ。彼女は誰にも明かすことなく、その中に無観客だからこその“チャレンジ”を盛り込んでいたのだった(ちなみに余談だが、彼女を支える敏腕マネージャーは“その違い”にもすぐ気づいたらしく「舞彩さん、今日ここ変えましたよね?」と指摘していた)。
ところで、ライブの生配信のあとには、彼女のファンクラブ「舞彩組」のメンバーを対象にした生配信が行なわれた。こちらは歌ではなくトーク主体のものだったが、ここで舞彩は「今、会場にいる武田舞彩を支えてくれているスタッフさんに出演してもらって、武田舞彩のいいところを10個ずつ言ってもらいたいと思います!」という、まさかのスタッフへの無茶振りを実施。それはまさしく、自分がどれだけ愛されているかを確認したいがためだけに、女の子が彼氏に「私の好きなところを10個言って?」とお願いするアレと同じ。彼氏からすると、もしも10個挙げられなかったら彼女の機嫌が悪くなるという黒ひげ危機一髪的なプレッシャーに怯えながら、自分の想像力と記憶力をレッドゾーンまでフル回転させないといけないアレである。
かくしてこの日、配信を行なうために集まった最低限の人数、3人のスタッフ(林マネージャーにアーティストラウンジの細沢オーナー、そして私)は、そんな武田舞彩の“地獄の無茶振り”に晒されることになったのである。
「今日はネイルしてないんですけど……。」
その後のトークで、ふいに彼女はこんな言葉を口にした。確かにこの日、彼女はネイルをしていなかった。
いや、厳密に言うと、リハーサルの時にはしていた。が、本番前に、それらを全部落としたのである。なぜか。それは、彼女のネイルが傷だらけで剥げていたから。
ライブ中、視聴者から「ギターが上手くなった」というコメントをいくつも目にすることができた。確かに今の彼女からは、ライブを行なうたびにギタースキルが上がっている印象を受ける。比較的頻繁に武田舞彩のステージを目にしている私ですらそう感じるのだから、久しぶりにライブを観た人たちは、なおのことそう思うに違いない。
当然のことながら、物事を上達させるには努力、つまり練習が必要となる。マネージャー曰く、「(武田は)365日のうち300日は事務所に通ってギターを練習している」とのこと。家でのそれも含めると、彼女がこの1年でギターの練習に充てた時間が相当なものになるのは容易に想像がつくだろう。
「……で、舞彩がネイルをしていなかった理由は、観ていた人たちに伝わったんだろうか?」
言葉だけでは足りないのか、さっきから指揮者のように何度も顔の前で動かしている、傷だらけになった彼女の指先をぼんやりと眺めながら、そんなことを思った。