8月22日、武田舞彩がYouTube Liveにて生配信された『テイラーロードショー“ホームエディション”(Taylor Guitars Roadshow “Home Edition”)』に出演。外出自粛期間中に制作した「愛のスヰング」「おんなの化け学」を初めて披露した。
テイラーギターが情熱を持ってプロダクトに注ぎ込んでいる技術やこだわりをテイラー社認定のプロダクトスペシャリスト・虎岩正樹氏が各地で解説するイベント『テイラーロードショー(Taylor Guitars Roadshow)』。しかし昨今、新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、観客を集めてのイベント開催が難しいことは誰もが承知のことだろう。そこで代替プログラムとしてスタートしているのが、虎岩氏がホストを務めるトークライブ番組『テイラーロードショー“ホームエディション”』だ。もっとも、代替プログラムとはいえ、レギュラー番組として継続の声が聞こえてきそうなほどのリッチなものとなっており、2020年5月には、B’z・稲葉浩志とのINABA/SALASでもおなじみ、スティーヴィー・サラスがサンディエゴから参加するなど、テイラーギターのファンだけでなく、今や音楽を愛する人たちにとって注目に値するコンテンツといえる。
今回、舞彩は、2ndワンマンライブでサポートギタリストとして迎えた葵ミシェルとともに本プログラムに参加。両者の出会いについては過去にも紹介したが、端的に言うと、山野楽器 ロックイン新宿の店頭でライブをしていたミシェルに舞彩が声をかけてナンパしたのである(詳細は「武田舞彩、『舞彩組』設立を宣言」の記事を参照 https://kakko3.tokyo/2019/08/29/maayatakeda/)。
会場に届けられた武田舞彩22歳の誕生日(8月21日)をお祝いするスタンド花をバックに、番組はコロナが猛威を奮った3月以降、外出自粛期間中にふたりが一体何をしていたかという話題からスタートする。舞彩はこの時間だからこそ作曲の仕方や音楽理論からちゃんとイチから勉強したと話しつつ、「でも(頑張ろうというメラメラが)3月4月は強かったんですけど、5月以降はバテました(笑)」と笑う。
両者ともテイラーギターを手にする女性アーティストということから、虎岩氏からは「ギター購入者の半数は女性」という興味深いデータが提示される。もっとも「楽器店での購入はほぼ男性」「女性はインターネットで購入する比率が高い」ということらしいのだが、とはいえ、“ギタリストは男性”という我々が抱きがちな固定概念の裏側に彼女たちのような女性ギタリストが想像以上に多く潜んでいるという事実には、ふたりはもちろん誰もが驚きを隠せない。
シンガーソングライターからギタリストへの転身を図った過去を持つミシェルが初めて書いたインスト曲「JOURNEY」を披露して、番組は、ふたりの作曲、さらにライブ配信などアウトプットの話へ入っていく。舞彩は、楽曲はメロディーから作ることが多いそうで、音楽以外の要素が楽曲制作における始点であり刺激となっているとのこと。また、コロナ禍の最中に生まれた曲については「時代に向き合う歌詞が多くなった。」と振り返る。一方のミシェルも、コロナの中では、たとえばこれまで普通だったことに対して感謝の気持ちが芽生えるといった環境の変化による気持ちの変化から、ギターから出る生音も変わってきたという。ただし、配信という手段を使ってのライブ実施については「画面越しだとライブのいいところが伝わらない気がするし、自分としても自分だけが満足して終わっちゃうのが嫌なので……。」と、ふたりとも消極的な様子。今、マネタイズを求めるなら、いわゆる無観客ライブは手段として有効だが、彼女たちにとってライブとは、単にその手段というわけではなく、それ以上の、もしくはそれ以外の要素も追求したいものなのだろう(もちろんマネタイズ自体はプロフェッショナルとして活動していく上で最重要ではある)。
今度は舞彩が「Truth Proof」をパフォーマンス。そして自身が所有しているTaylor K24ceとの出会いを語る(テイラー・スウィフトと同じモデルだから、という話は2019年9月に島村楽器ミーナ町田店にて行なわれた『テイラーロードショー』の記事「テイラーギターのイベントに武田舞彩参加」を参照 https://kakko3.tokyo/2019/09/29/maaya_takeda-5/)。一方のミシェルは、テイラーギターを手にすることになったきっかけを「ラインの音(=アンプにつないで出す音)があまりにも綺麗だったから。」と回顧する。これに虎岩氏は、「アコースティックギターの場合、ピックアップは後付けされることが多いが、テイラーギターはピックアップから自社で作っているから」という、テイラーのラインの音が綺麗な秘密を説明し、さらに2014年から搭載されているExpression System 2(ES2)というピックアップは、全モデル共通で搭載されていることを紹介した(つまり、ギターの材質や塗装、弦などによって差は出てくるものの、ピックアップの回路に限定すると最上位モデルも普及価格帯のモデルも変わらないことになる)。
ミシェルが女性限定でアコースティックギターレッスンを行なっているという話から、男女では体格や指の長さ、手の大きさ、力などに差があるのに、世間のギターの弾き方、教え方には男女に違いがないという話題へ。3人は「自分の好きなギターを使うべき」「弾きやすいフォームを探すべき」という意見で一致。さらに大きなボディーのギターのほうが好きというふたりを目の前にして、虎岩氏は「『テイラーロードショー』で出会ったギタリストは7割以上が女性だが、“女性だから小ぶりのギターがいい”という(世間やギターメーカーの誤った)固定概念をぶっ壊してくれる人ばかり。」と嬉しそうな様子を見せる。ちなみにミシェルのレッスンでは、生徒の弾きたい曲を弾けるようになることを目指しつつ、自身がギターを学ぶ中で気づき、そして考えた、女性がギターを弾くためのテクニックやセッティング、弾きこなすコツなどを教えているという。
「お父さんから誕生日プレゼントで、“ニュートンのゆりかご(紐についた金属球がいくつか吊るされていて、玉を弾くおもちゃ、またはインテリア。いわゆるカチカチ玉)”をもらったんですよ。その振り子のイメージが自分の心とかに似てたりするなって。感情ってひとつに定めることはできないし。自分自身もひとつに言い表すことができない。そんなイメージを曲にしました。」
舞彩の2曲目は、自身の誕生日前日に作ったという初披露曲「愛のスヰング」。「スヰング」に「ヰ」を使っているのは、冒頭の歌詞に出てくる「ウヰスキー」に由来するとも言えるだろうし、“Swing”の音を正しく表記するために歴史的仮名遣いをあえて用いたとも言えそうである(そもそも「ヰ」という文字の発音は今でこそ“i”だが、鎌倉時代以前のは“wi”だった)。
もしエレキギターで弾くならテレキャスター系が合いそうなカッティングを心地よく鳴らしながら、できたばかりのメロディーと歌詞を舞彩が力強く歌う。会場ではギターの生音と歌声の粒子が運動量保存の法則にしたがって空気中の粒子を震わせ、そして鼓膜へと衝突する。新曲の出来栄えや評価は、舞彩の初披露が終わった後に、虎岩氏とミシェルが自らのギターでコピーし始めたという行動がすべて物語っているだろう。
そして最後は、3人でのコラボレーションコーナー。4月の外出自粛期間中に曲を書いて、本番組の前日にタイトルをやっと決めたという新曲「おんなの化け学」が、葵ミシェルのアレンジバージョンで披露される。1年ぶりとなる舞彩とミシェルの共演に、『NAMM Show2020』で発表されたTaylor 618e V-Classを手にした虎岩氏のアドリブが重なることで生まれたサウンドは、芽吹いた草木の蒼さを揺らしながら駆け抜けていくように軽快かつメロディアス。女の子から女への変遷をたどる中での心象風景を瑞々しく描いた歌詞には、武田舞彩がまたひとつ新しい扉を開けたかのような印象を受けたことだろう。
なお、今回初披露された2曲の音源化はまだ未定とのこと。さらに昨今の情勢から、なかなかライブも実施できないため、武田舞彩がファンの前に出る機会もしばらく先になりそうではある。しかし、表に出ていない期間こそ好機と捉え、彼女は自身の内面からマグマのように湧き上がる感情の表現技巧とギターの腕を磨くことに余念がない。今回の配信を視聴した人たちはそれを確信したはずだ。
そしてスタッフサイドとしては、番組終了後に虎岩氏からTaylor 618e V-Classを借りて、「欲しいなぁ~。」とマネージャーに何かを訴えるかのように視線を送りながら音を鳴らしていた彼女に、“ひじき丸”に続く、“新しい武田舞彩のギター”の登場を確信するのであった……?
ちなみにテイラーギターのサイトによると、Taylor 618e V-Classの定価は58万円(税別)だそうだ。