12月7日、ばってん少女隊が福岡・UNITEDLABにて『瀬田さくら卒業公演 -桜歌爛漫-』を開催した。本公演をもって瀬田さくらはばってん少女隊を卒業。すでにアナウンス済みのSNSなどの扱いから推測できるように、年内でスターダストプロモーションとの契約も終了するのだろう。
卒業公演という特別な節目に、多くのファンが彼女の最後の姿を見届けようと会場に詰めかけた。チケットはもちろんソールドアウト。その熱気はフロアだけに留まらず、生配信を通じて現地に来られない多くのファンにも届けられ、各地でこの特別な瞬間を共有することができた。
本稿は、生配信を視聴したひとりの観客による記録、メモにすぎない。映像に映るもの、それを目にして感じたことをなんとなく自分勝手に書き留めただけのものだ。しかし、これが瀬田さくらという稀有な才能を持つアイドルが2024年のアイドルシーンに確かに存在していたことを、未来に伝える小さな種になることを願っている。「おは瀬田🍔」のポストが消えた世界の遠い遠い未来に、誰かがここに記された言葉に触れ、何かを感じ取ってくれるなら。
その時にこそ、この記録の存在意義は確かなものとなるだろう。
『瀬田さくら卒業公演 -桜歌爛漫-』の幕が上がる。
18時00分。時計は開演時間を指していたが、会場から送られてくる映像に音声はなく、ステージの様子だけが映し出されていた。つまり、開演が遅れているということだ。本公演に限っては、その理由は明白である。きっとステージ裏ではスタッフ総出で、戦場のような慌ただしさの中、メンバーたちのメイクを直しているのだろう。卒業公演で、開演前にまつ毛を濡らすなというのは酷というものだ。
約5分押しで、ついに『瀬田さくら卒業公演 -桜歌爛漫-』の幕が上がる。序盤は「BAIKA」「bye bye bye」「Going My Way」と、別れを思わせる楽曲が続いた。「今日はみなさんありがとうございます! みなさんのこと、大好きだよ!」と瀬田が呼びかけると、フロアは紫のペンライトで一面が埋め尽くされた。ステージ照明の影響か、カメラに映るメンバーひとりひとりの目が潤んでいるように見えた。瀬田の卒業公演は、同時にばってん少女隊6人での現体制ラストライブでもある。それぞれの心にさまざまな想いが去来していたのだろう。
上田理子が「とうとう2部が始まってしまいましたよ」と語り、ステージ裏でのメンバーの様子を瀬田と振り返る。「目だけ熱くて……」としれっと言い訳をする最年少の柳美舞。また、上田自身も「冒頭3曲やばかったよね。しょっぱなからダメだ……って」と告白する。だが、今日という日は、たとえ誰がどんな状態になっても、すべて受け入れられる。全員がやさしい気持ちで迎えたこの日。みんなの願いはただひとつ。瀬田さくらを無事に送り出すこと。卒業公演が無事に終わり、素敵な思い出の日になることだった。
張り裂けそうな感情が次々に連鎖していくステージ
隊員のみなさんが未来へ進むことができるように。そして、これからのばってん少女隊に期待してもらえるようにという瀬田の想いが詰まった次のブロックは、6人体制になって初のシングル曲「ばりかたプライド」から始まる。6人は、いや、とりわけ瀬田は、少し憎たらしいくらいに清々しい笑顔で歌い上げていく。それは、自分が卒業しても隊員のみんながばってん少女隊とともに顔を上げて、次の扉へ進んでいけるようにという心遣いだろう。10年もの間、芸能の世界で仕事をしてきた彼女は、まだ20代前半でありながら精神年齢ははるかに高い。だからこそ、そんな細やかな気遣いも自然にしてしまうし、それが瀬田らしいとも感じさせる。
「ますとばい!」では、ステージからのパワーとフロアからのコールが衝突を繰り返す。観客も悔いを残さないように全力で声を張り上げ、ペンライトを振り回し、体を動かして盛り上がりを作り続ける。一方、「さくら大好き! 今までいっぱいありがとう!」と希山愛が叫び、春乃きいなは全力のシャウトを響かせる。さらに上田理子も「さくらー!」と絶叫。張り裂けそうな感情が次々に連鎖していくステージ上の光景を目の当たりにすると、こちら側も内側から込み上げる熱い想いを抑えきれなくなりそうだった。
続く「虹ノ湊」は、終わらないと思っていた夏が過ぎ去っていくような切なさがあり、瀬田がちょうど卒業を発表した時にリリースタイミングだった「トライじん」は、フラメンコのリズムが未来へのエールのようにフロアを打つ。そして「Dear My Blues」のキラキラとした世界観がさらに続く。次々と披露される楽曲の中で、メンバーそれぞれの個性が際立つステージだった。
コロナ禍に生まれた「OiSa」の歌い納め
「みんな元気なくない? 泣いてる? まだまだいけるんじゃないの?」と煽る瀬田。そんな彼女の言葉を受けて「BDM」で歌い踊る6人は、激しさの中で輝きを放っていた。赤く染まったステージは、瀬田が芸能活動を通して心に灯していた炎のようにも見えた。
「OiSa」。ばってん少女隊の代名詞とも言えるこの曲は、希山愛の独特な声質に瀬田の持つ影のある響きが加わることで一つの完成形を見せていた。この曲が新体制ではどのように生まれ変わるのか、ファンにとっては期待と不安が入り混じる部分だ。続く「和・華・蘭」もまた同様だ。というか、ばってん少女隊がここ数年に渡って発表してきた楽曲の多くは、とりわけメンバーそれぞれの雰囲気や個性に深く根ざしている。だからこそ、新体制のばってん少女隊がどのような形でこれらの楽曲を表現していくのかは、彼女たちと制作スタッフの手に委ねられていると言えるだろう。デジタルな空間と彼女たちの歌声が調和する「ureshiino」。この曲で瀬田が歌う「とよたまのお姫さまにもうあえずに」のフレーズを耳にすると、最近はずっと泣きそうになってたという上田理子。今回のこの曲も、上田がどうしても聴きたくてリクエストしたものだという。
瀬田の声が楽曲全体に大河のように流れていた「わたし、恋始めたってよ!」は、これから蒼井りるあと柳美舞によって育てていくことになるのではないか。むしろその展開を期待したいと思ってしまう。ふたりの成長物語と楽曲が重なり合いながら、未来へとバトンをつないでいく。その過程でこの曲は、きっと瀬田の歌声で組み上げられていた曲とは別の、新たな輝きを持つはず。いや、もしそうだったらいいな、という願望でしかないのだけど。
光を目指して拳を突き上げるところから始まる「夢のキャンパス」。ザ・アイドルな曲調と演出が、ステージ上の6人を一層輝かせる。スカ・パンクな「おっしょい!」では、上田が「さくらに最後の『おいさ!』コールを届けましょう!」と観客を煽り、フロア全体に全身全霊の「おいさ!」が響き渡る。そして「さんのーがーはい!」で誰よりも高く、誰よりも強く跳びはねる観客たち。フロアのボルテージは一気に最高潮に達した。
「STORM!」では桜舞う嵐の情景を描くように歌い上げ、「御祭sawagi」では高まるビートの中でトランス状態に突入する。そんな中、不意に瀬田が観客に向けて投げたウインクで、「ああっ、この子は今、ばってん少女隊のライブを心の底から楽しんでいる!」という確信に変わる。なんだか今日は、瀬田の表情や動作のひとつひとつから普段以上に瀬田の想いが伝わってくるような気がしている。今日という特別な日がそうさせるのか。最後の輝きに誘われてしまっているのか。
メンバーからの手紙
このブロック終了後、MCコーナーでメンバーそれぞれが瀬田に宛てた手紙を読み上げた。中には手紙の内容を秘密にし、今の想いを直接伝える者も。演出として用意された「手紙を読み上げる」という選択肢に対し、「手紙は秘密にする」という本来は用意されていない選択肢を選択するということ。そんな、それぞれの個性が滲む姿こそ、ばってん少女隊らしさそのものだ。パフォーマンスも同様で、メンバーの一人ひとりは器用ではなくても、6人が一体となると果てしない可能性を感じさせる。まったくもって不思議なグループである。
「アイドルとしても、人としても尊敬しているし、憧れで大好きな存在。私もあんなアイドルになりたいって思っていました。だから一緒にアイドルができて幸せでした。」と大好きな気持ちを語る柳美舞。「さくらちゃんの周りは温かいふわふわのオーラがいっぱいで、りるあはそのオーラに助けられました。さくらちゃんとの思い出や、たくさんの言葉、さくらちゃんという存在を胸にこれからも一生懸命頑張りたいと思います!」と、独特のワールドを全開にして瀬田へ愛を投げつけた蒼井りるあ。
手紙を手にしながらも、その手紙を見ることなく、瀬田の目を見ながら想いを伝えたのが春乃きいな。「アイドルって、周りの人が笑顔であってくれたらと願ったり、嬉しいと思うような人たちなんですけど、本当にさくらはその言葉がぴったり。そう思う瞬間がたくさんあって。さくらは自分がアイドルぽくないって言うけど、でもそんなさくらが行き着いたアイドルの姿は、本当にアイドルで。瀬田さくらの10年は、中学生の同級生同士な時もあれば、どんどん素敵なアイドルになっていくさくらを尊敬のあまりなのか、なんでそんなすごいところへという気持ちなのか、たまに直視できない、真正面から受け止められない時もたまにはあったかなと思う。けど、さくらが卒業を発表してからの期間、最後だけどさくらを知って、ばってん少女隊として、瀬田さくらという素敵なアイドルと一緒にいれたのは幸せだなと思います。今日でばってん少女隊の瀬田さくらは最後だけど、日常を過ごしていたらさくらを思い出すだろうし、美味しいものを食べたらさくらを思い出すだろうし。そういうところで、さくらがみなさんの中で素敵なアイドルだというのはすごく誇らしいです。さくらと同じステージに立って活動できたこと、本当に嬉しく思います。長い間、ばってん少女隊でいてくれてありがとう。」
春乃きいなと同じく、手紙には目を落とさずに、むしろ「お手紙を書いてきたんだけど、この内容はさくらとの秘密にしたいので内緒です。」と宣言して語り始める上田理子。「何をしていても正反対だなっていう私たち。でも、ばってん少女隊でやってみたいこと、叶えたいことはさくらと一緒で。でも私たちは正反対だから、そこにたどり着くまでのルートも真反対で。だからぶつかることもあった。それもまた私たちらしい。」と、上田はこれまでの日々を思い返して涙を流す。思うに、瀬田と上田の関係性は、春乃のそれとはまた違ったものだっただろうし、希山愛との関係も、またそれとは違ったものだったのだろう。でもそれでよくて。単に仲良しなだけでなく、単に感情をぶつけ合うだけでもない。きっとそれぞれが、それぞれのやり方で真剣だった。それぞれのやり方で、ばってん少女隊というものを守り、育んできた。「私はさくらと叶えたかった景色がいっぱいある。それもこれから先、全部できるんだって思っちゃってた。けど、そんなことはないことに気づくのも、遅かった。」という後悔のようなフレーズも、きっとそれは後悔の気持ちだけではなく、だからこそ、むしろ叶えられなかった景色を瀬田の想いも背負って絶対に目にするという覚悟のようですらある。アイドル時代よりも絶対に幸せな日々を送らないといけないのがアイドルを辞めた人間の使命ならば、辞めた人間がアイドル時代に見ることができなかった景色を(その人の想いも全部引き受けた上で)何としても見ないといけないというのが、残されたメンバーに課せられた使命なんだと思う。
そして希山愛。言葉を話すということは、ある規則に沿って発声された音が空気を揺らし、鼓膜を通じて信号として脳で処理されて伝わるシステム。なのに、希山愛という人の言葉には、不思議と体温を感じることがある。「さくらから卒業するって話を聞いた日は、寂しくて寂しくて、離れるのが嫌で、信じたくなくて、その日は人目も気にせず大号泣して歩いたんよ。そこで福岡国際会議場まで行って、ここでみんなでライブしたなーとか。福岡市民会館に行って、今度はここに立つのか。って実感したり。」「正直なことを言うと、さくらと一緒に10周年を迎えたかったなって。この瞬間でも、『卒業するのやめたよー。』って言ってくれんかなって。心の奥底で思っていることです。でも、これが正直な気持ちだけど、さくらがたくさん考えて決めた道。私たち、みんな応援しとるよ。辛い時は隊員さんやメンバーの笑顔や、みんなとの思い出を思い出して。見て、こんなにたくさんの方がさくらの味方やけん。安心して夢に突き進んで行ってね。」といった言葉のひとつひとつには、希山の温かさがある。やさしさがある。そして「さくらは今幸せ? じゃあ、卒業したらもっともっと幸せになってもらわないと、みんな困るけん。もっともっと幸せになってね。さくらに出会えて、一緒にばってん少女隊で活動できて、本当に良かった。来世でも同じグループになろうね。」という独特な表現で、少しの笑いが起こる。でもこれが希山愛だ。
散々涙で顔を濡らし続けた瀬田だったが、泣いていると指摘されると「汗だし。泣いてねーし。」と強がる。さらに、「卒業する時って、みんなと一緒にいれることが一番だけど、そこで抜けちゃうのは申し訳ないというか。もっと一緒にやりたいこととかあったし。だから、すごい、いろんな気持ちがあるけど。それ以上にみんなからたくさん幸せな気持ちをもらって、グループで活動してきて、話を聞いていても、みんな強くなったなって思ったし。私が抜けたらどんなグループになるんだろうって考えたこともあるけど、この5人になら、これまでのばってん少女隊の歴史も、隊員の気持ちも、全部、全部大切にしてくれると思う。前にしか進まないグループだなって思うから、頑張ってほしい。私はばってん少女隊を卒業しちゃうけど、イチ隊員としてみんなのことすごく応援しています。ペンラは全色光らせるし。今日の隊員みんなもすごい勢いあったけど、私はこれを超える最強の隊員になるんだって思うから。これからもがんばってください。」と、メンバーたちにエールを送る。さらに隊員にも「アイドルってすごく難しい職業だと思うんですけど、私も卒業する決断に時間かかったし、思うこともあったけど、こうやって前を見続けてくれるメンバーがいて嬉しいなって思う。私もアイドルをしていて、隊員のみんなからの応援で頑張れたりとか、辛いことが合っても先を見続けたいなって思った。みんなはこの5人と新メンバーを応援してくれたら嬉しいです。これからのばってん少女隊をよろしくお願いします。」と頭を下げた。
残り3曲
ふいに希山愛が瀬田に駆け寄り、抱きついた瞬間、6人全員がステージの中央で肩を寄せ合った。感情があふれる中で迎えたラスト3曲。「無敵のビーナス」では、笑顔と涙が混ざり合う6人の姿が印象的だった。目に涙を浮かべ、声が震えていても、それでも最後まで笑顔で歌い切る。それはアイドルとしての役割を果たす彼女たちの決意だった。この日の「無敵のビーナス」は、もちろん瀬田にとって特別な一曲であると同時に、6人全員を表す曲かのように響いた。
ライブはその勢いを保ったまま、ばってん少女隊としての瀬田さくらの最後に向かって進んでいく。「My神楽」では、未来への祈りを込めて歌い上げ、観客全員が声を合わせて彼女たちの未来が笑顔に満ちたものであることを願った。そして最後の楽曲となったのは「it’s 舞 calling」。瀬田が「本当に最後の曲です」と紹介し、曲は始まる。渡邊忍が紡いだ言葉がステージを舞い、音に導かれるように瀬田さくらの、ばってん少女隊の未来への希望が泉のように湧き上がり、そして溢れ出す。そんなグルーヴに乗ったこの曲によって、卒業公演は終幕を告げられたのだった。
「瀬田は、ずっとずっと願っています。」
ステージには瀬田ひとりが残り、感謝の言葉を丁寧に伝えていく。メンバー、家族、スタッフ、そして応援し続けたファンへ向けられた言葉の一つ一つは、瀬田がこれまで積み重ねてきた10年間を象徴していた。最後まで、瀬田は自分の想いを的確な言葉に変え、観客に語りかけ続けた。その姿は、10年間のキャリアを通じて磨き上げられた表現者としての真髄を感じさせるものだった。
「これからもばってん少女隊と、ここにいるみんなが、すごくずっと幸せでいることを、瀬田は、ずっとずっと願っています。」(→瀬田さくらのラストMCは2ページ目に掲載)
他の5人が花束を抱えてステージに駆け戻ると、ばってん少女隊6人全員で最後の挨拶。そして、「ちょっとだけ、みんなをじっと見ていてもいいかな」と瀬田はつぶやき、溢れる涙とともに、観客ひとりひとりをじっくりと見つめた。紫色に輝くペンライトが揺れるフロア。その光景は、彼女自身にとっても、また我々にとっても、決して忘れることのできない景色となったはずだ。
「もうこのステージからの景色は一生忘れません。みんなのこと大好きだよ。一生幸せでいような!」という瀬田の言葉が、瀬田の祈りが、瀬田の願いが、観客の胸へと最後に深く刻まれる。そして観客からの「ありがとう!」という感謝の声に包まれながら、瀬田さくらは静かに、ばってん少女隊のステージを降りた。
桜の花びらが冬空に舞い散るように、瀬田さくらのアイドルとしての活動も幕を閉じる。
しかしその花びらは風に乗り、このステージを見届けたすべての人々の心にもそっと舞い降りるだろう。記憶の中でなら、いつまでも鮮やかに。どこまでも華やかに咲き続けることができる。
もし寂しくなったとき、負けそうになったとき。そんな時は、目を閉じて、耳をすまして、思い出せばいい。
いつだってその桜は満開で。
そしてきっと、懐かしそうに微笑みかけてくれるはずだから。
リンク
【動画配信】ばってん少女隊 瀬田さくら卒業公演 -桜歌爛漫-(12月31日(火)22:00まで)
ばってん少女隊オフィシャルサイト