LINE CUBE SHIBUYAの天井から降り注ぐ無数の光の粒子が、10人の姿を神々しく照らし出す。
オケが突如として止まった瞬間、制作スタッフはきっと空気が凍りついたことだろう。しかし彼女たちは、まるでそれすらも計算されているかのように、その”事故”をショウの一部へと昇華させていく。
いや、これが数々の場数をこなしてきた”経験値”というものか。10人が『#高嶺のなでしこ 東名阪ツアー2025 -Spring Ride-』ファイナル公演のステージで魅せたのは、アイドルという肩書を超えた、純度の高いエンターテインメントそのものだった。
東名阪ツアーファイナル、光の表現で魅せる演出力
2025年5月14日、LINE CUBE SHIBUYA。『#高嶺のなでしこ 東名阪ツアー2025 -Spring Ride-』のファイナル公演の日だ。
会場に足を踏み入れると、この場所での前回の記憶が蘇る。以前はいぎなり東北産のライブを観た場所。あの時と同じ、電波の入りづらさに苦笑いしながら席に着く。
ステージ上には植物の蔦が絡みついたガーデンアーチのようなシンプルなセット構成。しかし、シンプルの中に緻密な計算がある。骨組みに仕込まれたLEDが、ある時は新緑に、ある時は虹に変幻自在に姿を変える様は見事というほかない。ホールの特性を活かした光の表現が極めて効果的に使われている。
一方でスモークの濃さは写真撮影にはやや厳しかったかもしれない。だが、それすらも彼女たちの存在感を際立たせる演出として機能していた。
トラブルさえも魅せる、プロフェッショナリズム
公演中、突如としてバックトラックが止まるハプニングが発生した。
こうした場面でのパフォーマーの対応は、その実力と経験値を如実に表す。彼女たちの反応は見事だった。まるで演出の一部であるかのようにパフォーマンスを続け、観客に気づかせないようなナチュラルさは感嘆せざるを得ない。音源が復活した際、春野の歌い出しがわずかに迷ったことでようやくトラブルだったと認識できるほどの対応力だった。
こうした危機管理能力は一朝一夕に培われるものではない。数々のステージで積み重ねてきた経験値が、彼女たちの大きな武器になっている。
ユニゾンで歌うパートでは、技術的な成熟も明らかだった。特に東山恵里沙を中心としたボーカルワークの安定感は特筆に値する。
「おーれーの、えりさー!」
後方客席から湧き上がる声援が耳に残る。「革命の女王」など、いくつかの楽曲では威圧感すら放つようになった表現力に、ただの”可愛らしさ”を超えた芸術性すら感じる瞬間があった。
シルエットに宿る個性と城月菜央の独自性
「決戦スピリット」などの楽曲では、ステージサイドからの強烈なライトによって壁に映る彼女たちのシルエットが印象的だった。
パフォーマンスを見る際、こうした影の美しさも重要なポイントとなる。彼女たちの影が美しいのは、日々の姿勢や立ち居振る舞いが洗練されているからこそだ。何気ない仕草一つ一つに、プロフェッショナルとしての矜持が垣間見える。
一方、城月菜央 ── 通称「せんしゅ」の存在感は群を抜いていた。
客席から眺めていても、遠目に一発で「せんしゅだ」と識別できる独特の動きと表現力がある。それはダンススキルの上下という単純な評価軸では測れない、唯一無二の個性だ。彼女の一挙手一投足には、他のメンバーとは一線を画す独自の鳥エネルギーが宿っている。
「Loveちゅっちゅー♪」と歌われる「推しの魔法」でもせんしゅの輝きは特に目を引いた。コールなど、ほかの曲と比べても一際、観客と共に創り上げる感があるこの曲、きっとせんしゅは、そんなこの曲が大好きなんだろう。
さらに、ステージ上でのチュンとした姿からは想像できない、少しハスキーな話し声のギャップも興味深い発見だった。そういえばオーちゃん見つかってよかったですね。
クライマックスで頂点を迎えた、観客と演者の共振
公演のクライマックスに差し掛かる「可愛くてごめん」から「ファンサ」への流れは、この日の公演で最も熱量の高い場面だった。
ここで興味深いのは、パフォーマンスと観客の反応の相互作用だ。客席からの全力のコールに応え、ステージ上の10人のパフォーマンスが熱を帯びる。それを受け、さらに客席側のコールが増幅されるという好循環が生まれる。会場全体の温度は段階的に上昇し、空間全体が一つの有機体のように脈動していく様は、ライブエンターテインメントの醍醐味そのものだった。
手の届く先にある未来
「夢は、手を伸ばした1mm先にある」
公演中、松本ももなからの感謝の言葉として耳にしたこのフレーズは、グループの現在地を的確に表現している。今のアイドルシーンで躍進するグループに共通する「同性からの熱い支持」をも獲得し、彼女たちの勢いは増すばかり。
客観的に見て、彼女たちはすでにその”1mm先”を軽々と超えていくような成長曲線を描いている。もはや手を伸ばした先を追い越す勢いすら感じさせる。かといって、その上にあぐらをかいていたら、その1mmの差で夢は逃げていく。だから高嶺のなでしこは、絶対に掴むまで必死にもがき、指を伸ばし続ける。
アイドル衣装の裾を揺らし、無数の光の粒の向こう側で躍動する10人の姿。彼女たちの成長曲線は今後も上昇し続けるだろう。より大きな会場で、より洗練されたパフォーマンスを我々に見せてくれる日も近い。
しかしながら、このレポートを通じて伝え切れないのは、実際の空気感と熱量だ。この夏、彼女たちは様々なステージで観客に熱狂と興奮、そして煌めきを与えることになる。そして9月7日『高嶺のなでしこ 3rd ANNIVERSARY CONCERT 「A Wonderful Encounter」』では、そのステージをグループ過去最大規模の幕張イベントホールへと移す。
彼女たちが描いている物語の証人になれるのは、今この瞬間だけかもしれない。いずれ”あの時、その場にいればよかった”と後悔する日が来る——それほどの特別な瞬間が、目の前で輝きを放っている。
だからこそ、この目で確かめに行こう。彼女たちの未来の始まりを。
余談
「みんなのこと、無意識に考えることが増えました。みなさんも私たちのこと好きですか?」
星谷美来のこんな問いかけに、会場全体が巨大なオスの生命体にでもなったかのような、ものすごい轟音でレスポンスを返したことを最後に余談として記しておきたい。まあ、気持ちはわかる(笑)。
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