武田舞彩が10月16日、渋谷にあるライブハウス・TAKEOFF7にて開催されたライブイベント『TAKEOFF7 presents Special Live 歌姫伝説』に出演した。
新型コロナウイルス感染症の影響もあり、舞彩にとって観客を呼び込んでのライブステージに出演するのは約8ヶ月ぶり。外出自粛期間中は、ひたすらに歌やギターのスキルアップおよび映画や読書量を増やすことで、様々な知識、感性、思考、思想などを存分に吸収。気合いが入っていた3月4月を過ぎ、中だるみを迎えた5月6月には朝からお酒を飲んでいたりしたようであるが、それら2020年のこの時期だからこそできた経験も含めて、彼女が得たものは、同期間中に制作した楽曲にも反映させた。
無観客での配信ライブを基本的には行なわないスタンスの彼女。久しぶりにステージに立ったリハーサルでは、照らされるライトの温かさを感じながら、ブランクを埋めていくように1曲ずつ入念に歌い、ギターの感覚を確かめていく。同時に、たとえば気合いが入りすぎてテンポが早くなっていたら、あえてテンポを落としてゆっくり歌うなど、本人とスタッフで気になった点があればすぐに直すことで、本番に向けて調整を行っていた。
武田舞彩、約8ヶ月ぶりのステージ
DREAMS COME TRUEやリンドバーグ、プリンセス・プリンセスなど錚々たるアーティストたちがステージに上がった渋谷TAKEOFF7。2020年10月で40周年を迎えるこのライブハウスが、次の時代を作るであろう歌姫をキャスティングして行なうライブイベントが『歌姫伝説』だ。
「みなさんこんばんは。武田舞彩です。チケットはソールドアウトということで、みなさんと一緒に楽しんでいければと思います。」
ハーレー・ダビッドソンのロゴが大きく入ったTシャツにパンツ姿のラフな格好で2組目に登場した舞彩。1曲目として、8月に『テイラーロードショー“ホームエディション”』に出演した際に初公開した「愛のスヰング」をさっそくライブ初披露する。久しぶりのブランクゆえか、当初は、『テイラーロードショー』の時以上に歌唱に固さが目立ったが、とはいえ、歌っていくうちに本人も笑顔が出るほどにリラックスした様子。同時に、ステージに立って歌える喜びと楽しさ、本人のテンションが上ってきている感覚が伝わってくる。
「今日は本当に、お集まりいただきありがとうございます。私個人としても約8ヶ月ぶりにみなさんの前でライブをするので、本当に今日を楽しみにしてました。みなさんもライブに足を運ぶのが久しぶりという方もいらっしゃるのかなと思うので、あまり声は出せませんが、ディープな感じで楽しんでいただければと思います。」
「義侠心とか男気を持っている女性ってかっこいいなと思って、そういうイメージで書いた楽曲」というMCとともに、こちらもライブ初披露された「おんなの化け学」も自粛中に書いた作品。緩急をつけたギターのカッティングが曲にドライブをかけていく感じはこの曲の魅力のひとつ。そしてこの心地よい音に「おんなの化け学」という一癖も二癖もありそうなタイトルと歌詞を乗せてしまうのが武田舞彩の味ということかもしれない。
いつかバイクで
“ダエグ乗り”の父親の話をしながらバイクへの憧れを口にする舞彩。その流れで「いつか私も、大きな会場でライブができるようになったらバイクで登場してみたい。」と、遠くない未来のステージプランを語って目を輝かせると、会場からは笑いが起こる。そして、仮にそれをやってしまったら完全にE.YAZAWAではなくM.TAKEDAである。
いつもよりテンポを少しだけ落とし気味の「Hurts」は、彼女の愛器・Taylor K24ceから生み出されるグルーヴが、フラメンコギターのような華やかさと哀愁をまとう。悲鳴を思い起こさせるブレスが緊迫した想いを伝え、吐き出される言葉のひとつひとつが、描かれた光景、感情の“重み”を感じさせる。諦めと迷い。その歌声は観客の耳元へと届けられた。
「この自粛期間でも、いろんな小説を読んだり映画とか観たんです。Netflixで観た作品とかチェックしていくんですけど、あらためて見返すとドロドロの恋愛モノの映画をよく観ているんですよ、私。だから……そういうのが趣味なのかなぁ、とか思います。ただ、今ってNetflixのようないろんなサブスクリプションサービスで、手軽に何でも手に入る時代になったんですけど、こういうライブ、“生”のモノってすごくいいなと思っていて。少しずつ日常に戻りつつあるので、私もいろんなものに自分から足を運ぶようにしています。必要なものってなくならないと思うし。こういうライブとか自分も必要ですし、みなさんも観て、感じるものがあると思うので、またライブに来てくれたら嬉しいです。」
「自分の存在意義とか考えたりするんです。」
そして最後に、舞彩は「Truth Proof」と「ねこ」の2曲を披露する。
「最近は自分の存在意義とか考えたりするんです。『自分はなんだろう』って。自分と向き合う時間も増えたので、なんかこう『共同デザイン』なのかな、と。自分がなりたい自分と、他の人が思う自分って違うと思うし、そういうのからどんどんデザインされていって、本当の自分とかけ離れていっちゃうのかなって。そしてそのギャップに打ち砕かれてしまうことも多いのかな、って。そういういろんなことを考えながら書いた楽曲を2曲続けて歌いたいと思います。」
それは彼女の年代にありがちな一般的な悩みについて自分の意見を述べているようでもあり、昨今の世間のざわつきに触れているようでもある。ボブ・ディラン、ジョン・レノン、吉田拓郎、尾崎豊……。記憶に新しいところでいうと、全世界が視聴した新型コロナウイルス感染症対策支援コンサート『One World: Together at Home』の発起人を務めたレディー・ガガ。いつの時代もシンガー・ソングライターは社会を鋭く切り取り、声なき声を代弁し、そして時代の象徴となっていった。舞彩の発言にどのような意図があったのかは知る由もないが、彼女もまた偉大な諸先輩たちのように、自らの言葉で、自らの音楽でメッセージを発信していくのだろう。
「Truth Proof」で舞彩は、色とりどりのライトに照らされたステージの中央で仁王立ちするようにギターを構え、まっすぐ前を向いて小気味よいカッティングに大胆に解き放たれたボーカルを乗せる。そして夕日のようなオレンジの光に染められて、アルペジオから始まる「ねこ」。舞彩はつぶやくように、言葉をぽつり、ぽつりと音に置いていく。“あの頃”の彼女が、周りのファンを笑顔にしながら、その裏側で感じていたこと。初披露の時には、その衝撃的な内容に心をえぐられたファンも多かったが、久しぶりに耳にしたこの曲は、彼女の気持ちの入れ方と抜き方、それにともなう歌い方やギターの音の出し方(一言で言うと表現力の向上)によって、初披露の時とはまた違う衝撃を観客に与えたはずだ。
TAKEOFF7「歌姫伝説」終演後
風の噂によると、どうも舞彩は今回のステージの出来に満足……というわけではなかったようではある。が、しかし「それもライブだから」で済ますことなく、悔しさを次につなげていくことこそが彼女の向上心の現れであり、彼女の原動力でもある。
まあもっとも、久しぶりに客前でライブができたこと自体は、ライブが跳ねたあとに入ったお店でLA時代に聴いていた曲がBGMで流れてくると鼻歌が出てしまうくらいにハッピーな出来事だったようだけど。
そんな武田舞彩は、11月19日に代官山LOOPにて開催される『Flavor 〜Daikanyama LOOP 12th Anniversary〜』に出演する。観客60名限定のライブで、共演は、宮﨑薫、貴愛ほか。